「パパ!橙輝があたしのことからかうんだけど!」
パパの隣にしゃがみこんで、そう言った。
パパは川から目を離してあたしを見た。
「橙輝が?」
「そう。頭は叩くし馬鹿にしたように笑ってくるし。
そうしたと思えば今度は自分に構うなって、
邪魔だってあたしを邪険に扱うんだから」
ふくれっ面でそう言うと、
パパは目を丸くした。
そうしてすぐに柔らかく笑うと、
釣竿を引き上げて釣りを止めた。
「梓ちゃん。橙輝はね、不器用なんだ。
梓ちゃんが嫌いでそうしてるんじゃなくて、
照れ隠しなんだよ。
大目に見てやってくれないかな?」
「うぅ。パパがそう言うなら……」
「梓ちゃんはいい子だね。こんなに
可愛い娘が出来ると思うと嬉しいもんだよ」
「パパはさ、なんでお母さんと再婚することにしたの?」
あたしがそっと問うと、
パパは困ったように笑った。
「実は……婚活パーティーで意気投合してさ。
最初は俺からだった。
お母さんに必死にアタックして、
ようやく頷いてくれたんだ。
って、こんな話は恥ずかしいな」
ははっと笑うパパ。
ていうか、お母さんはまだ離婚する前から
婚活パーティーなんかに参加してたんだ。
ちゃっかりと。
パパは嬉しそうな表情をして、それから
お母さんとの思い出を語り始めた。
それをぼうっと聞きながら、
少し離れたところで釣りをしている
橙輝の方へ視線を向けた。
橙輝は真剣に川と向き合っていた。


