二階へ上がると、橙輝の
部屋の前で立ち止まった。


入ってもいいかな?


「橙輝。入るよ」


一声かけてドアノブに手をかける。


ドアを開けて中に入ると、
閉めろと言われる前にドアを閉じた。


「なんだよ」


「……パパが今度の日曜日、
 出かけないかって」


「日曜?俺は行かねえ」


「なんで?」


「親父とおばさんとお前?
 はは。それで楽しく出かけようって?」


「何か問題でも?」


「大ありだろ。
 そんな面倒くさいこと、
 俺はしたくないんだよ」


橙輝はそう言って作業していた手を進めた。


「また絵描いてる」


「ダメかよ」


「いいや、ダメじゃないけど……
 橙輝、絵好き?」


「………なんで?」


「いつも絵描いてるから」


橙輝は少しおかしそうな顔をしてあたしを見た。


なにがおかしいのか、
眉を顰めてあたしをじっと見つめる。


橙輝はしばらくの間の後で、
ふっと馬鹿にしたように笑った。


「嫌いだよ。絵なんか」


「えっ……」


「邪魔だから出ていけ」


橙輝は立ち上がってあたしを引っ張り出した。


バタンと閉められた扉は無情にも冷たく、
物音もしない無機質なものに変わってしまった。




あたしはここから、
鳴海橙輝という男を知っていくことになる。


この時はまだ、何も知らなかった。


絵の上手いあたしの義理の兄となる人。


ただそれだけだった。







それだけだったのに……。