「待って!行かないで!」


勢いよく体を起こすと、頭に衝撃が走った。


「いったぁ~」


「ってぇ!」



低い声が聞こえて、
まだぼうっとする頭で考える。


今のは、夢?


最悪な夢だった。


お父さんがどんどん遠のいていってしまう夢。


どれだけその背中を追っても
距離は縮まらなくて、


もどかしい気持ちでいっぱいになったところで、
あたしは目覚めた。




額を押さえると、
同じ仕草をした橙輝の姿があった。


「橙輝。何してんの?」


「百瀬がいきなり起きるからだろ!」


「なっ、あたしのせいだっていうの?」


「百パーセントお前が悪い!」


「な、なによ!」


「なんだよ!」


「あらあら、二人とも仲良くなったわね」



思い切り橙輝を睨みつけると、
背後からお母さんの声がした。



振り返ると、
パパと二人で並んで立っている。


そっちだって仲良さそうじゃん。


ていうか、あたしたちは
別に仲がいいわけじゃなくて……。


「俺、今日は飯いらないから」


「橙輝くん、食べないの?
 今日はせっかくお鍋なのに」


「食べればいいじゃん。
 意地張らないで」


「なに?」


「あたしに喧嘩売ったから
 引っ込みつかなくなったんでしょ?」


「なんだと!」


「こらこら、二人ともいい加減にするんだ」


パパがあたしと橙輝を宥めるように間に入った。


あたしたちは睨みあってバトルを交わす。


橙輝は深いため息をついた。