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昼休みになって、席を立つ。
財布を持って一階の購買に向かった。
購買は人でいっぱいになっていて、
パンやお弁当の争奪戦になっていた。
意外と人の間をすり抜けることが出来て、
あたしはメロンパンとリンゴのジュースを買って
群れから脱出した。
どうしよう。
百合のとこに行こうか、
でも、邪魔しちゃ悪いよなあ。
教室で独りぼっちで食べるのも気が引ける。
どこで食べようか迷いに迷って、
結局あの空き教室を使うことにした。
空き教室は誰もいなくて、
しんと静まり返っていた。
パンとジュースを机に置いて座る。
ふと、黒板に目をやると、
雑に消されている跡だけが残っていた。
きっとこれは橙輝の絵だ。
立ち上がって黒板の前に立った。
ここに、この黒板いっぱいに広がった
橙輝の絵-。
お世辞とかじゃなくて
本当に素敵だと思った。
それなのにどうして
消してしまったのかな。
残っている絵をそっと撫でると、
指に粉がついて消えた。
「何してんだ?」
ふいに声が聞こえて振り返る。
そこには橙輝がいた。
驚いた顔をして立っている。
手には購買の袋が提げられていた。
「橙輝こそ。どうしたの?」
「俺はここで飯食おうかと」
「偶然ね。あたしもご飯食べに来たのよ」
「……邪魔したな。俺は別なところで食べるよ」
「ちょ、ちょっと待って!」
慌てて止めると、橙輝は
気怠そうな視線を寄越した。


