急に攻撃的になった橙輝は、
しっしと手で払う真似をしてみせた。
しぶしぶ机から離れてドアへ向かう。
扉をスライドさせて、もう一度振り返った。
「授業、真面目に出なさいよね」
「うるせぇなぁ。早く帰れよ」
「分かったわよ!」
勢いよく扉を閉めて、廊下を歩いた。
ふと、教室を覗きに戻ると、橙輝は
せっかく描いた絵を
白のチョークでめちゃめちゃに
塗りつぶしていた。
勿体ないな。
せっかくいい絵だと思ったのに。
絵が好きなんじゃないの?
今の橙輝は、とても苦しそうに見えた。
といっても
背中を向けているから分からないけれど。
教室に戻ると担任からこっぴどく怒られた。
橙輝も怒られればいいのに……。
「百瀬。入学早々サボるとはいい度胸だなぁ」
「橙輝だっていないじゃん!」
「人のことはいい!お前の話をしているんだ」
「ちょっといなかっただけじゃん……」
「なに?」
「なんでもないです。すみません」
あんまり反抗すると目を付けられちゃう。
あたしは頭を下げて自分の席についた。
周りはクスクスと笑っていた。
ああ、自己紹介もろくに聞かなかったあたしには
友達がいない。
しかも授業をサボったことで
余計友達なんか作れない空気が流れていた。
数学の教科書を開いて、
黒板に並ぶ数式をノートにメモしていく。
数学って苦手。
大人になっても絶対に使わないでしょっていう
数式ばっかり覚えて何になるの?
そう思っているから、いつまでも
苦手意識が抜けないのかな。
ふと、隣の席に視線を送る。
橙輝が戻ってくることはなく、
橙輝が次に顔を出したのはお昼休みに入った時だった。


