SKETCH BOOK




「お前、名前なんて言ったっけ?」


「あたし?あたしは梓。桜田梓」


「梓か。いい名前だな」


「そうかな?橙輝だって
 いい名前じゃない」


「俺のは、母さんがつけたんだ」


あ、言っちゃいけなかったかな?


橙輝は遠い目をしていた。


「太陽のように輝く子でありますように。
 そう願ってつけたんだと」



太陽のように輝く子……。


今の橙輝からはそんなの想像もつかない。


輝くもなにも、光がまったくないんだもん。


笑っちゃうわよね。


でも、離婚なんかしなかったら、
橙輝は今頃その名前に恥じない


生き方が出来ていたんだろうなと思うと
少し悲しい。


本当に、親って勝手よね。


子どもの気持ちなんて考えないで、
自分たちは恋愛を繰り返すんだから。


橙輝がこんなにひねくれてしまったのも、
全部親のせいね。


「とりあえずお前は教室に戻れ。
 俺は一人になりたいんだ」


「なんでよ」


「なんでも」


「あたしがどこにいようが勝手でしょ?」


「一人になりたいって言ったんだ。とっとと失せろよ」