SKETCH BOOK




しんと静まり返る中、
パパが一つ咳をした。


お母さんはひたすら泣いていて、
雨は止む気配もない。


そんな中、橙輝の手が
ピクっと動いた気がした。


びっくりして慌てて橙輝のそばに駆け寄る。


その手を握りしめると、
心なしか握り返されたような気さえした。


「パパ。お母さん。橙輝の手が動いた!」


「えっ?」


二人とも驚いて橙輝を見た。


あたしは橙輝の手をもう一度握った。


すると今度はさっきよりも
もっとはっきりと握り返された。


橙輝の顔を覗き込むと、
その目がゆっくりと開かれた。


「橙輝!」


目に涙が浮かぶ。


やっと起きた。


もう起きないんじゃないかって思ってたから、
今こうして目を開けたことがとても嬉しかった。


橙輝は薄く目を開けると
キョロキョロとその目を動かす。


そしてあたしを見つけると小さく笑った。


「梓……良かった……無事で」


「何言ってんの、馬鹿!こっちのセリフだよ」


「橙輝くん、大丈夫?具合は?
 痛いところはない?」


「俺、先生を呼んでくるよ」


パパが慌てて病室を出て行くと、
橙輝は少し体を起こそうとした。


体が痛いのか顔をしかめる。


あたしは橙輝の手を掴んで
さっきよりも強く握りしめた。


「橙輝。ごめん、
 あたし……あたしのせいで」


「梓のせいじゃないよ。俺の不注意だ」


「でも」


「大丈夫。なんともないから」


にっこりと笑う橙輝を見て、
少しだけホッとした。


いつもの橙輝だ。


「目が覚めたようですね」


ガラっと扉が開いて、先生が入ってくる。


すると橙輝の顔色が途端に悪くなった。


眉を顰めて、怖い顔をしている。


何かあるの?橙輝。









先生が今の状況を説明し始めた。


今の橙輝は頭を強く打っていて
精密検査が必要とのこと。


それ以外は特に怪我もなく無事だっていうこと、
そして、それからと先生は続けた。


「ご家族の皆さんには、
 お話しておく必要があります。
 鳴海くん、いいですね?」


「…………」


「落ち着いて聞いてくださいね。
 鳴海橙輝くんは今、
 とても深刻な状況にあります」


「えっ?」


先生は真面目な顔をしてそう告げた。


深刻な状況って何?


なんともないんじゃないの?


それとも橙輝の体は、
どこか悪いっていうの?













「筋萎縮性側索硬化症という病気を
 知っていますか?」