「どうしたんだよ。こんなところで。
家に帰ったんじゃなかったのか?」
「帰ったけど、出てきちゃった」
「橙輝となんかあったの?」
「……あたし、振られちゃった」
「えっ?」
「好きになることもダメだって。
迷惑なんだって」
話してみるとじわじわ涙が溢れてきて、
あたしは浩平の前なのに大泣きしてしまった。
浩平は驚きながらもあたしを慰めてくれて、
あたしが落ち着くまで傘をさし続けてくれた。
自分が濡れていることを気にもせずに。
やっぱり浩平は優しい。
でもその優しさにいつまでも甘えちゃいけないんだ。
そう思って必死に涙を堪えると、浩平は笑った。
「落ち着いた?仕方ないよ。
兄妹なんだからさ。
きっと橙輝も突然のことでびっくりしただけさ。
付き合うことは無理かもしれないけど、
冷静になれば梓の気持ちも
ちゃんとわかってくれるはずだからさ」
浩平の言う通りかもしれない。
そう思ったらだんだん胸の中が
すうっと落ち着いてきた。
そうだよ、びっくりしただけだよ。
きっと帰ったら橙輝はいつも通り
何気なく話しかけてくれるんだ。
そうしたらあたしも笑って話して、
それで元通りになるはず。
難しいことなんてない。
きっとそれだけなんだ。
「ありがとう。浩平のこと
傷つけてばっかりなのに、
助けてもらっちゃって」
「いいんだよ。それより、送るよ。
そのままじゃ風邪ひくだろ」
浩平はそう言ってあたしを立たせた。
ゆっくりと歩き出すと、
それに合わせて浩平も歩いてくれる。
これで終わりにしなきゃ、浩平に頼るのは。
あの香水が壊れてくれてよかったのかもしれない。
これで完全に浩平からは離れよう。
そうじゃないと浩平も幸せになれないし、
あたしだってダメ女のままだもんね。
浩平、今までありがとう。
そう心の中で思いながら家まで歩いた。
家の前で浩平と別れて
玄関のドアに手をかけると、
あることに気が付いた。
橙輝のバイクがない。
どうして?
どこかに出かけたの?
不思議に思っていると、
中からお母さんが慌てた様子で飛び出してきた。
「お母さん、どうしたの?」
「あ、梓。落ち着いて聞いてね―――」
「えっ……」
雨がざあざあ降っていた。
雨粒は大きく、
痛いくらいにあたしの体を濡らした。


