朝が来て、やっと
いたずらの電話が鳴り止んだ。


まだ震える体を抑えて制服に着替えると、
リビングへ降りた。


リビングではパパとお母さんがいて、
笑顔で迎えてくれる。


電話のことを言おうか迷ったけど
なかなか言い出せない。


ただ二人の明るくて温かな雰囲気に包まれて、
思わず泣きそうになった。


しばらくして橙輝が二階から降りてきた。


あたしは目を合わせないようにご飯を早く食べて、
いつもより早く家を出た。






学校に着くと相変わらず嫌がらせが続くと思ったら、
今日は何もなかった。


不思議に思いながらもその日は一人で過ごして、
ようやく一日が終わり学校を出ることにした。


誰にも話しかけられないけれど何もない。


それが妙に気味悪くてしかたない。


だけど久しぶりに何もない日になって
浮かれていたのかもしれない。


学校を出てスキップで歩いていると、
前から大きな黒い車がゆっくりと近づいてきた。


車から見知らぬおじさんが出て来て、
にっこり笑いながらあたしに声をかけた。


「やあ、梓ちゃん」


「えっ……なんで名前を知って……」


「おじさんと遊ぼうよ」


こいつ、昨日の人だ。


そう気付いて、ぞっと背筋が凍り付いた。


逃げなくちゃ!


そう思っても怖くて腰が抜けてしまう。


おじさんに引っ張られて車に乗せられそうになった時、



「男好きなんだから、遊んでもらえば?」


綾子の声がした。


振り返ると綾子たちが束になって立っていた。


みんな笑ってる。


この男、綾子の仕業なの?


綾子はふっと笑うとあたしの目の前に立って言った。


「これに懲りたなら鳴海くんと縁を切りなさいよ。
 どういうわけか鳴海くん、
 あんたのことばっかり気にしてるみたいだし」


縁を切るなんて出来ない。


だってあたしたちは血は繋がってはいないけれど、
兄妹だもの。


橙輝はあたしの、お兄ちゃんだもの。