「はっ?」


その声は、頭上から降ってきた。


顔をあげると、驚いたような
顔をした橙輝が立っていた。


ヘッドフォンをかけていて、
飲みかけの紅茶を手にしていた。


橙輝はあたしを見て口をパクパクさせた。


「なに?」


「お前……なんで」


「覚えてなかったの?隣の席なのに」


「だってお前、一言も言わなかった……」


「知ってると思ったんだもん!」



言い合いをしていると、
教室中があたしたちを見ていた。


橙輝は口を開けたままあたしを見つめる。


そうしているうちにチャイムが鳴って、
先生が入って来た。


「おーい、鳴海。席につけー」


仕方なく席に着いた橙輝は、
チラリとあたしを見た。


重いため息をついて、
スケッチブックを開く。


そうか。


机にかじりついて
何を書いているかと思えば、


絵を描いていたんだ。


気になって覗こうとすると、
橙輝と目が合う。


橙輝は舌打ちをして
見せまいと腕で囲う。


つまんないの。


見せてくれてもいいじゃない。


誰がそのスケッチブックを
預かってあげたと思ってるのよ。