「な、なにもないから」


「ふーん。あっそう。へぇ」


「なによ」


「それならいいけど、
 何かあったら頼れよ。兄貴なんだから」


「うん」


それだけ言うと、
橙輝は部屋を出て行った。


残った部屋で一人、胸に手を当てる。


心臓がドキドキいってる。


びっくりした。


あんな顔されたら、心臓もたないよ。


橙輝の描いた絵を眺める。


ノートをパラパラめくると、
クマが独りぼっちから


仲間をどんどん増やしていくストーリーで、
最後にはみんなで笑い合うというものだった。


本気の橙輝の絵以外見たことがなくて、
こんな絵もいいなと思った。


相変わらず上手いなあ。


消せないじゃない。こんな絵。


ふと、電話が鳴った。


知らない番号からで、あたしは
無視してケータイを放り投げた。


するとすぐにメールが受信された。


「えっ……」


差出人は不明。


知らない人のメールアドレスで、驚いた。


なんであたしのメールアドレスを知っているの?


もしかして、今の電話もこの人から?


気持ちの悪い内容のメールを眺めていると、
また知らない人から電話が来た。


今度は出てみようと電話を受けると、
それはおじさんの声だった。


「遊ぼうよ。梓ちゃん」


「だ、誰ですか」


「君、百瀬梓ちゃんだよね?
 おじさんと遊ぼうよ」


「や、やめてください!」


思わず電話を切ると、一気に体が震えた。


気持ち悪い声。


一体なんでこんなことに。


そう思ってはっとした。


もしかしたら、綾子たちが……?







電話やメールの嵐は夜中まで続いて、


あたしは怖くて一睡も出来なかった。


何人もの人からの電話とメール。


メールは開かないで削除した。


でも、受信するたびに体が震えてしかたなかった。


アドレスを変えることは出来ても、
番号をすぐに変えることは出来なくて、


一つ一つを着拒にするしか他はなくて、
それでも鳴りやまない電話に頭を悩ませた。