「お前ら、何やってんの?」


ガラっと教室の扉が開き、声がした。


その声は顔を見なくても分かる。


橙輝だ。


扉の方へ視線を向けると、
橙輝がびっくりした顔をして立っていた。


手にはスケッチブックと
お昼ご飯が入った袋があった。


橙輝はしんと静まり返った教室内を見て、首を傾げた。


すると綾子が慌てて口を開いた。


「ちょっとみんなで内緒話!
 鳴海くんには教えられないの!ね、梓」


「う、うん……」


さすが女子。


今まで睨みつけてきていたのに、
橙輝がいるとなるととたんに態度が変わる。


にっこり微笑まれて、思わず頷いてしまった。


橙輝は不思議そうにあたしたちを見て笑った。


「梓、お前なんて顔してんだよ。
 まぁいいや、邪魔したな」


橙輝が教室を出て行くと、
みんなが一斉にあたしを睨みつける。


綾子が追い打ちをかけるようにあたしに詰め寄った。


「とにかく、痛い目にあいたくなきゃ
 鳴海くんに近付かないことね」


綾子に引き連れられてみんなが教室を出て行く。


一人取り残されたあたしは、
浩平のことを思い浮かべていた。


浩平がいてくれた頃は良かった。


みんなとも友達になれて、学校が楽しくて、
本当に幸せだったんだなぁって今更思う。


バカみたい。


そんな幸せを放り投げて、
いばらの道を進むなんて。


橙輝に振り向いてもらえない辛さだけだと思っていたけれど、
まさかこっち方向の辛さがあるなんて思わなかった。


これが、女に生まれてきたがための宿命。


そして、これが橙輝と
兄妹になったがための宿命なんだ。