「馬鹿だよな。麻美は死んだのにさ、
絵を描くことで麻美の未来を見た。
麻美と笑い合う夢を見た。
どうしてもやるせなくなった時、
絵を描いて気を紛らわせてきた。
それがあんな形で広まった瞬間、
それはただの絵になった。
分かってる。
そんなこと分かってんだよ。
麻美はもういないってことも、
そんなの馬鹿げた夢だってことも。
でも、魔法がとけたみたいだった。
麻美が死んだ現実に引き戻された感覚だった」
橙輝はポツリ、ポツリと話し出した。
橙輝はずっと、この絵を描くことで
麻美さんと向き合っていたんだね。
絵の中の麻美さんと同じように息をして、
長い間ずっとそうやって生きてきたんだね。
絵を見ると、どれも麻美さんは笑っていて、
景色はどれも澄んでいて、
どれも絵のこちら側には橙輝がいたんだ。
そういう絵だったんだ。
それは何人たりとも冒すことのできない領域。
紛れもなく橙輝のためだけの世界だったんだ。
「橙輝、絵を描こう。麻美さんの絵を描こう。
また描こうよ。そして息をしよう。
大丈夫。あたしがいる。
橙輝は一人じゃないよ。
あたしが、いるから。だから、また描いてよ。
夢でもいいじゃない。麻美さんに会いに行こう」
橙輝を座らせて、
手にしていたスケッチブックを取った。
真っ白なページを開いて、
自分の筆箱から鉛筆を取り出すと、
橙輝の手に持たせた。
描いて。橙輝。
息をして。
希望を見失わないで。
また、笑って。
麻美さんに会いに行こう。
麻美さんと笑おう。
もう一度、夢を見ようよ。


