「なんか最初は、はぁ?って思ってたけど、
妹が出来るのっていいな」
「えっ?」
「麻美がいたけど、
下にはいなかったからさ。
なんか下に誰かがいるのっていいよなぁ。
守ってやりたくなるっていうの?
だからさ、何かあったら俺に言えよ?」
「妹って言っても、同い年じゃない」
「妹は妹だろ」
「そうだけど」
「まあとにかく、
何かあった時は必ず言えよ。
俺が守ってやるから」
何それ。
出会った頃とはまるで違う態度。
最初はあたしのこと、
鬱陶しそうにしてたし、
話そうともしなかったのに。
妹になるとなった途端、
お兄ちゃんのようなことを言ってさ。
調子狂うからやめてほしい。
いつもの意地悪で横暴な橙輝でいてほしいのに。
優しくされちゃあ、やりづらいじゃない。
「ありがとう。まあ、何かって言っても
何もないだろうけどね」
「あるだろ。いじめられたりとか」
「ないない。あたしだよ?
いじめなんてあるわけないでしょ」
「そうか」
「そうだよ」
鉛筆でノートにグリグリと円を描いていく。
普通に会話していることに驚きを隠せない。
明日で変わるっていうのに。
いつもと変わらない。
それがいいことなのか悪いことなのか分からない。
「お休み。梓」
「お、おやすみ。橙輝」
立ち上がった橙輝は満足そうに小さく笑うと、
部屋を出て行った。
呼ばれた名前は自分のもののはずなのに、
どこか擽ったかった。
明日から何かが変わる。
あたしの未来が変わっていく、
そんな気がした。