SKETCH BOOK




「やっぱり、早いか」


「えっ?」


浩平はそう言うと、
あたしのおでこにそっとキスをした。


「泣かせるつもりはなかったんだけどな」


そっと目を開けた時、
ポタっと涙が頬を伝った。


泣くつもりなんてなかったのに。


ただ、なんでか分からないけれど、
橙輝の顔がちらついてしまったんだ。


叶うわけないのに、
そんなこと絶対にあり得ないのに、


それなのにあたしは、特別なキスは
橙輝とがいいと思ってしまったんだ。




浩平に申し訳ないことした。


そう思って慌ててブランコから立ち上がると、
浩平はにっこり笑ってあたしの頭を撫でた。


「帰ろうか」


「あ、あの、浩平っ」


「おいで」


浩平はあたしの手を引くと
ゆっくりと歩き出した。


それにつられてあたしも足を進める。


どうしよう。


謝りたいのに、
なかなか言葉が出てこない。


しんと静まり返る中、
あたしの足音だけが街中に響く。


ぐるぐる考えているうちに、
あっという間に家に着いてしまった。



「じゃあ、また明日」


「あの、浩平。あたし、その」


「いいから」


「えっ?」


「無理しなくていいから。
 梓のペースで、全然いいからさ」


あたしのペースで?


浩平はそう言うと、
あたしの手を離して笑った。