SKETCH BOOK




彼女、かぁ。


そうだよね。


橙輝にだって彼女くらい出来るよね。


ただ麻美さんを想ってばかりで
目がいかないだけで、


作ろうと思えば橙輝なら
いくらでもつくれそうだもんね。


浩平が言った言葉を頭の中で
ぐるぐると考えていると、


橙輝はダルそうに言った。


「彼女?面倒くさい。誰が作るか」


「面倒なの?橙輝」


「付き合うとか付き合わんとか、
 鳴海なら面倒だっていいそうだな」


ははっと笑う浩平は相変わらず明るい。


橙輝は頷いてため息をついた。


でも、あたしは見逃さなかった。


少し遠い目をしていた橙輝を。


きっと麻美さんを想っている。


麻美さんと付き合うことが出来ていたらと思うと、
どんなにいいか。


きっと橙輝はそう思ったに違いない。


そうでしょう?


「お、もう人が集まってる!」


浩平の言葉に顔を上げると、
もう神社に着いていた。


神社の前には数人のクラスメイトがいて、
楽しそうにお喋りしていた。





あたしはあることに気付く。


私服。

私服。

私服。


浴衣の女子なんてどこにもいない。


浴衣を着ているのはたった一人。


あたしだけだった。


「ちょっと、浩平!」


「んー?」


「浴衣だって言ったじゃない!」


「そうだっけ?まあ、いいじゃん!」


やられた。



まんまと騙された。


ていうか、橙輝も言ってくれればよかったのに!


浩平と橙輝を思い切り睨みつけると、
浩平は笑い出した。