「よし、完成」
声をあげた橙輝は立ち上がって
満足そうに笑った。
何この男、完璧じゃない。
絵も描けて、音楽も出来て、
美容師みたいなことが出来る。
無駄な才能が羨ましい。
これでなんでモテないのかが不思議。
きっと口の悪いところとか
協調性のないところが原因だろうけど。
橙輝はあたしを椅子に座らせて
自分の部屋からウエストポーチを持ってきた。
あの日みたいに櫛を髪に通していく。
今日は髪を思い切りあげて編みこんでくれた。
その出来がすごくて思わず歓声の声をあげる。
橙輝は満足したのか自慢げに腕を組んで立っていた。
「ありがとう。綺麗」
「さすが俺。上出来だ」
「なにそれ」
「もっと敬えよ。俺を」
「はいはい」
いつの間にか帰って来ていたお母さんに
浴衣を見せに行くと
驚いた様子であたしと橙輝を交互に見た。
嬉しそうにはしゃぐとお母さんは
自分の寝室から一つの簪を持ってきた。
「お母さん、これ……」
「あんたの本当のお父さんから
もらった簪、あげるわ」
「なんで……」
「あんた、好きでしょう。
お父さんのこと」
もらった簪を手に取って眺める。
これが、お母さんとお父さんを繋ぐ唯一の物。
それが嬉しかった。
お母さんがパパを好きでも、
これをとっておいてくれたっていうことはきっと、
心のどこかにお父さんがいたってことだよね?
それでいいんだよね?
「つけてやるよ」
「うん」
橙輝が簪を受け取って髪につけてくれた。
お母さんは感心したように
あたしをじっと見つめると嬉しそうに笑った。


