SKETCH BOOK




「それで浴衣?
 お前も一応女だもんな?あはは」


「笑うな!もういい。行かない」


怒って頬を膨らませると、
橙輝はぽんぽんと頭を撫でた。


「悪い、冗談だよ。よし、来い」


「えっ?」


あたしの手を引っ張ると、
二階へ上がってあたしの部屋へと押し込んだ。


「ちょっと、何するのよ」


「いいから」


いつも橙輝は言葉が足らない。


一体何だっていうのよ。


橙輝はクローゼットを漁って
あたしの浴衣を取り出した。


白地に朝顔の柄の浴衣。


橙輝はその浴衣を持って笑った。


「着せてやる」


「えっ、橙輝が?」


「ああ」


「で、でも、恥ずかしい……じゃん」


「あ?」


恥ずかしいよ。


橙輝に着せてもらうなんて。


だって橙輝は男の人だし、それに……



「じ、自分で着るからいい!」


橙輝から浴衣を奪って
後ろを向くと、ため息が聞こえた。


「出来ないだろ。やってやるよ」


「で、でも」


「松田に見せたくないのか?」


「うっ」


「じっとしてろ。すぐ終わるから」


仕方なく黙って大人しくしていると、
橙輝の手がすっと伸びてきた。


目を閉じてじっとしていると、
次にどこに橙輝の手がいくのか分からなくて緊張する。


薄目を開けて橙輝を見下ろす。


橙輝は真剣な表情で着付けをしていた。


ダルそうでいて真っ直ぐな
その眸を見ているとドキッとする。


しんと静まり返る部屋の中には
橙輝とあたしの息遣い、


そして浴衣の衣擦れの音だけだった。