「でも泊まらなきゃよかったとも思ったんだ。
 だって梓が、好きな男とこうして
 同じ屋根の下にいるんだって思ったら
 いてもたってもいられなくて。


 勢いあまって告白したら頷いてくれるし。
 嬉しかったよ。まさか
 いい返事をくれるなんて思ってなくてさ」


「……うん」


「で、なんとか俺の方を向いてほしくて
 ここ一週間ずっと一緒にいた!
 だからちょっとは俺のこと
 好きになってくれたかなって思って
 聞いてみただけ。


 梓の気持ちは俺が痛いほど分かってるから。
 だから今は好きじゃなくてもいい」



松田くんはあたしの手をそっと握った。


その手がとても温かくて、
思わず涙が溢れた。


好きじゃなくてもいい。


梓の気持ちは俺が痛いほど分かってる。


そう言ってくれたことが嬉しくて。


「だからこれからも
 俺とずっと一緒にいてください」



きゅっと繋がれた手を、
あたしは握り返せるだろうか。


握り返してもいいんだろうか。


分からない。


分からないけど、
あたしの気持ちをちゃんと伝えなくちゃ。


「あたし、松田くんを好きになるよ。
 こんなに優しくて、こんなに大人だもん。


 ちゃんと好きになる。
 好きになれる気がする。


 変かもしれないけど、
 失礼かもしれないけど、あたし、
 ちゃんと松田くんのこと好きになりたい。
 だから、あの、そのう……」


「梓、ありがとう。
 そこまで言ってくれて嬉しい。
 だから泣かないで。な?」


「う、うん。ごめん。あたし、こんなんで」


「謝る必要はない。
 これから幸せになればいいんだからさ」


「うん」