点滴の準備中栞菜はロビーで声をかけられた。




その顔に見覚えがある。




昨日撤退を告げた会社の従業員だった。




栞菜は慌てて立ち上がり頭を下げた。




「もう、いいんだよ。みんなもうだめだってわかってんだ。最後にもがきたかったんだよ。まだだめかって。」




「、、、」




「あれだけみんな人生をかけてきたんだ。もがきたくなる気持ちわかってくれんだろ?あの会社のお陰で結婚して、子供3人成人させられたんだ。感謝も恩も愛着もあんだよ。」




「申し訳ありません」




「妻が病気になって、先、長くないんだよ。新しく職場変わってすぐは休むわけいかないだろ?妻が気にしちゃってさ。病院にくるなって会ってくれないんだよ。あと何回会えるか分かんないのにさ。」




「、、、、、」




「38年だよ。あの会社に勤めて38年。結婚して30年。ずっと文句ひとつ言わないでいてくれた妻が初めて支えが必要だって苦しんでるときに、、、なんで気を使わせなきゃならないんだか、、、なんで今なんだろうなぁ。」