「郁っ、お前…」

「おっと、冗談。可愛いからつい。僕が可愛い子好きなの知ってるでしょ?」

先程までのふわふわする感覚はどこへやら、綾永君の剣幕に驚くも、郁君は軽く笑って流した。

「ムキになって、綾永らしくないなぁ。可愛い子は、皆で共有しないとね。」

なだめるようにポンポンと綾永君の肩を叩き、そのまま校門の方へ歩いて行く。
まだ私は2人がなんで喧嘩したのか分からないまま状況が飲み込めずにいた。

「琴子ちゃん。またね。」

視線だけをこちらへ寄越し、塀に姿を消した郁君。

「あ、…はいっ!また…!」

急いで頭を下げる。
不思議な人だった…。というか、流し目も絵になる…。

呑気な私の後ろでは、去って行った郁君を依然睨みつけている綾永君が居た。
そんなに怒らなくても…、と私は眉尻を下げ、優しい声色で声を掛けた。

「そんなに怒んなくても、別に何かされた訳じゃないんだから大丈夫だよ。」

クイッと袖を引っ張って微笑みかける。
厳しかった視線は私へ移り、途端いつもの表情へ戻った。

「呑気なこと言ってっと痛い目見るぞ。」

そう一言述べた綾永君は、何も無かったかのように歩き出し、帰路へとついた。