「琴子。」

階段を降りていた私の後から、今朝と同じ声が投げ掛けられた。
足を止め振り向くと、式場まで連れて行ってくれた男の子が立っていた。

「あ、今朝の!本当にありがとうございました。」

軽く頭を下げて礼をする。迷子だと勘違いされていたとは言え、連れてってくれた気持ちが嬉しかった。

……というか、呼び捨て?

「なんで敬語なんだよ。お前とクラス違うだけで同級生だから。俺も1年。」

また呆れた顔をされた。年上とばかり思っていた私は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした。

「えぇ!?そうだったんですかっ…、じゃなくて、そうなの!?」

食い気味に聞き返す内に私の1段上まで階段を降りて来て、

「式の席もお前の斜め後ろに居たっつの。」

「全然気付かなかった…。あの、私は蓮見 琴子。勘違いしててごめんね。」

朝から情けないところばかり見せてるな…と恥ずかしくなりつつ自己紹介。

「知ってる。俺は九条 綾永。」

そういえばさっき名前呼ばれたっけ…。
綾永君か…。

ズボンのポケットに手を入れ、相変わらず不機嫌そうな顔で見下ろす彼。
無愛想な顔がデフォルトなのかな…?なんて失礼なこと考えつつ…

「綾永君もこれから帰るとこ?」

にっこり対照的に笑みを見せては小さく首を傾げる。

「まぁな。お前がいつまでもボケっと教室にいるから遅くなったんだよ。」

と返事するや否や階段を降りていく。
まるで私を待っていたかのような言葉にクエスチョンマークが頭の上を飛び回り

「え、それってどういう…っ。」

「帰んぞ。」

私の言葉を遮るような一言。歩みを止めない綾永君を見失わないように急いで私も階段を降りて行った。