「ばいばーい。」

「うん、ばいばい!」

放課後、明日香ちゃんと別れ家路につく。

とりあえず今日は何も無かったことに安堵しつつ、ふと、履いているローファーを眺めた。

小さい頃に両親を亡くし、それ以来父方の叔父に引き取られた。
決して裕福な生活では無いけれど、愛情いっぱいに育ててくれた叔父さんのおかげで、幸せな毎日を送れている。

高校入学祝いに叔父さんが買ってくれた靴。
可愛くて、結構気に入ってる。
周りの女の子はカラフルなスニーカーやブーツなんかを履いてるけど、これはこれで古風で良いよね。
本当に、周りの人に恵まれてるな、と感慨深くなってしまう。


街中に差し掛かると、何気無く目に付いたショーウィンドウ。
そこに映る私は、切りっぱなしのロングの髪をひとつに縛り何のアレンジもしてない普通の制服を着ていた。
普通の高校生。何の特徴も無い、ただの女の子。

郁君や綾永君に気にかけられる程、大したことは無いのに。
不思議だな……。

ガラスを見てると、なんとなく前髪が気になって、ちょんちょんと整えてみる。
ガラスに映る自分の奥に並ぶマネキンが着る服は大人っぽくて、凄く可愛い。

…値段は…………、

た、たかっ!……これは買えない…なぁ。

値札をよく見れば並ぶ0の数に息を呑む。

私のお小遣い数ヶ月分。全身揃えようものなら死ぬ気でバイトしなければいけない値段。

…大人の世界だ……。

はぁ、と思わずまた溜息が出た。
本当は周りの女の子達みたいにいっぱいお洒落がしたい。
可愛い服を着て、髪の毛もふわふわした柔らかい髪にしてみたい。

でも、我慢我慢っ…!

「……帰ろ。」

なんだか虚しくなって、またアスファルトを見つめその場を立ち去ろうと1歩踏み出した時だった。

「琴子ちゃん、帰っちゃうの?僕と遊ぼーよ。」

突然後から両肩を掴まれ驚くが、その声にすぐに誰かは分かった。

「キャッ、え…郁君!?」

「やっほ、琴子ちゃん。」

上機嫌そうな郁君は、まるで正体を隠すように、お洒落なサングラスをかけていた。


まさかこんなところで会うなんて…!
今朝のこと、謝ろう…。
動揺してたとは言え、素っ気なくなっちゃった…。


「あの、郁君、今朝はごめんなさ…」

「よし!琴子ちゃん入ろうか。」

「い、……えぇ!?ちょっと!」

相変わらずマイペースな郁君は、そのまま私の腰へ腕を回し、まるでエスコートをするかのように、先程まで服を眺めていたお店の中へと足を進めさせるのだった。