はぁ…疲れた。

1限目が終わったばかりだというのにどっと疲れが出た。
今朝の先輩達の視線を思い出すと気が気じゃなかった。

あんまり目立ちたくないんだけどなぁ…。

「おー、どしたの琴子。元気ないじゃん。」

明日香ちゃんがワシャワシャと頭を撫でてくる。
心配気に覗き込んできたのに思わず口元がへの字になる。

「明日香ちゃ〜ん……。私悪目立ちしちゃった…。」

「だから言ったじゃん気を付けろって。んで?誰と絡んでてお姉様達に睨まれたの?」

興味津々な様子の明日香ちゃんとは対照的に、身体の隅々まで脱力する私。

沈黙して数秒、重い口を開いた。

「………郁君。」

「あら〜、よりによって、モテモテモデル君かぁ。」

聞けばファンクラブは数知れず。
きっと周りの女生徒だってファンクラブの人達だったんだ。

「なんかさぁ、謎のルールとかあったりするんだよね。ファンクラブって。話しかけて良いのは○○だけ。とか、毎月○○すること。とか………。私みたいな1年生が郁君から挨拶されるなんて何を思われるか……。」

想像しただけで憂鬱になり髪を掻き乱してしまうが、悩んでも仕方ない!

私から挨拶した訳じゃないし!まだマシ!………かも…?

「んまぁ、郁君から挨拶されるなんて、琴子が可愛いからじゃん?郁君って美女好きで有名だから。逆に開き直って自信もったら?『私はあんたらみたいなブスとは格が違うんだよ』的な?」

「だっ、ダメだよ!そんなこと言ってたら殺される!……実際、私より可愛くて綺麗な人なんて郁君の周りに沢山居た…。」

どんどん声が小さくなり、肩が縮こまる。
本当は私なんかが郁君に構ってもらえるなんて、贅沢な話。

格好良くて、お洒落で、人気者。おまけにモデルさんまでしてる。

それに比べて私は、私服はダサいし、髪だって染めたことない。顔だって特に可愛いくもないし……。

周りの女の子はキラキラしてて、眩しいくらいなのに。
自信もつなんて…………。


「あー、琴子。マイナス思考になってるでしょー?」

ピコンッ、と軽くおでこを弾かれてハッと我に返る。

「いたっ…、明日香ちゃん……?」

「琴子はね、良い子だよ。人間中身だから。少なくとも外見ばっか磨いて可愛くなろうとしない他の女よりはね!」

頬をムニムニと摘んでから満面の笑みを浮かべる明日香ちゃん。


「………ありがとう。明日香ちゃん。たまには良いこと言うんだね。」


私の失言と共に鳴る始業のチャイム。
怒るに怒れない、教室に入ってきた先生と私を数度見ては悔しそうな明日香ちゃん。
大人しくお互い席に着いたけど、心はすっごい暖かかった。



ありがとう、明日香ちゃん。