郁 side .。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚



…あぁ、うるさい。

群がる女は下品な笑い声を上げてベタベタとくっついてくる。
香水の匂いが混ざり合って気分が悪い。
色気づくどころか金をチラつかせて、僕を誘おうとする美しくない女達。

反吐が出る。

なんで僕はこんなに美しくないものに囲まれているんだろう。

綾永と共に入学してきたあの子が、頭に浮かぶ。
ずっとずっと待ち焦がれていた…長い間。
ようやく出会えたのに、僕の隣にいるのはあの子じゃない。

周りの女の黄色い声は雑音となり、言語としての認識ではなくなる。
頭にはただ、あの子の笑顔だけが浮かんだ。

興味のない女ばかり僕に擦り寄ってくるのに、なんであの子は振り向いてくれないんだろう。
好きな人でも、居るのかな…。

「………それはそれで、燃えるけどね。」

「え?郁君なんか言ったー?」

「うんん。君可愛いね。髪色変えた?この前は綺麗な黒髪だったのに、アッシュ系の色にしたんだね。よく似合ってる。」

緩くパーマのかかったロングヘアを優しく撫でてやれば、女は嬉しそうに微笑み恥じらう。

どれだけ鬱陶しくても、食事は食事。

キープしとくのは、大事だよね。





ふと、横を通り過ぎようとする女子生徒が目に入る。
足早に過ぎていくが女の子の歩幅。後ろ姿ですぐに分かった。


「あ、琴子ちゃん。おはよう。」

不覚にも頬が綻ぶ。
朝から琴子ちゃんを見れたことが嬉しかった。

でも……


「お、おはよう。……ございます。」

ぎこちない返事、逃げるように去っていく背中。
ズキッ…と胸の奥が痛んだ。

僕なんか嫌なことしたかな…。
真剣に考えること数秒。

周りの女の子の囁き声が耳に入った。
ハッと我に返れば

「あー、なんか気向いたかも。皆でさぁ、カラオケ行かない?皆の歌聞きたいなぁ。」

両脇に居た女生徒の肩を抱き注意を逸らす。
盛り上がった様子の女生徒と共に踵を返し校門を出た。

軽率だった、と反省する反面、他人行儀なあの子に自分が思う以上にショックを受けている自分がいる。

こんなの僕らしくない。




琴子ちゃんは誰にも渡さない。






狡猾な悪魔に、僕はなるよ。