少し時間が経つと顔色が落ち着いてきた。

それは私も同じだった。

私が見ていることに気づいたのか
目を合わせて

「奇遇だな、俺もだ」

「え?それはつまり…」

緊張と驚きで、どんな顔をしているのか
自分ではわからなかった。

そんな私の唇に、彼はそっとキスをして

「つまり、こういうことだ」

にやりと笑う。

…え。

何気にファーストキス奪われた。
ってかなんでそんな平然としてられるの!?

「な、なにすんの!」

「なにって、返事してやったのにぼけーっとしてたから。キスした」

「悪かったわね!」

やばい、今顔真っ赤
見なくてもわかる。

「で、どうする?付き合うか?」

「当たり前でしょ!」

あ、しまった。
心の中で言うつもりが、声になってしまった。

「そんじゃよろしくな、成瀬」

「こちらこそ…優斗」

「あ、知ってんだ名前」

「ばかにしてんの!?」

「告白された時から、どういじろうか考えてた」

「あんただって顔真っ赤にしてたじゃん!」

「気のせいだろ」

こいつ…

「でも意外だな、前に告った時はふったのに」

自分の気持ちを言うのは恥ずかしいけど、
あの告白よりも怖いものはない。

「ももかだよ。
前に恋愛相談受けてるって言ったでしょ?
あの日からずっと長谷部の話をしてるもんだから、私も気になっちゃって。
最初はももかの恋を応援するって言ったから、好きって気持ちに気づいていないふりをしてた。
でも、ちょっとした会話で盛り上がったり、一緒に出かけたりしてるうちに距離が縮まって、好きって気持ちを隠しきれなくなった。
こうやって告白できたのは、ももかのおかげなんだけどね」

少し下を向き静かに微笑んだ。
優斗に言ったつもりが、
自分もそのことに改めて気づいた。

帰ったら一番にお礼言わないとな。

そう思った私は
くるっと窓の方を向いて

「そういうあんたは、ふられたのに
諦めたりしなかったの?」

「そりゃまぁ、ふられた直後は諦めたぞ?
でも、ずっと好きだったやつだから
そう簡単には諦められなかった」

「ずっと?」

思わず優斗の方を見る

告白されたのは高校に入ってすぐだった。

ずっとってことは

「中学の時から気になってたんだよ」

「え!?」

驚きのあまり
つい大きな声を出してしまった。

「なんでそんな前から…だってこないだ
私のこと怖かったって」

「確かに初めて会った時は怖かったし、関わりたくないって思ってた」

…すみません。

「でも、ある日突然変わったろ?
最初は同一人物だとは思えなかった。
信じられなさすぎて、中川さんに確認までしたんだ。
そしたらあの人、いつも通りの片山だとか言って。」

あぁ、紗友莉さんそういうとこあるよね。

あれで、いつも通りって言うのはちょっと違うと思うけど…。

いいこと言ってくれるんだけど
その半分は覚えてないとか、無意識のうちに口が動いたとか、
不思議なことを言ういわゆる天然キャラだったからな。

「それから毎日図書室に来るお前を見てたんだ。夢じゃないかって。」

「そこまで言う?」

「だって俺の好きな図書室を荒らしに来てたやつだぜ?」

その説は申し訳ありませんでした。

心の中で謝る。

「でも、何度見ても片山成瀬だった。
最初は信じたくなかったんだ。
荒れてたお前苦手だったから」

そうだよね。
あんなやつが好きって言う人はいないよ。

「それなのに俺、同一人物だと思い始めたと同時に、お前を尊敬の目で見始めた。
変わりたいけど変われない。
そう思ってる人は多いし、俺もその中の一人だった」

「そ、尊敬だなんて」

照れくさくなって下を向く

「そしたら案外近くにいたやつがたったの一日で変わっちまうんだから」

真剣に話していたかと思うと
今度は笑い出した。

「それまでは変わりたいのに変われない自分について悩んでたのがばからしくなって、
そん時からはお前みたいに真っ直ぐ生きようって思ったんだ。
そしたらいつか、なりたい自分になれる気がしたから」

確かにあの時は、素直で真っ直ぐだった。

そっち方が楽だし、楽しかったから。

「そう思って一年間生きてきたのに、
俺の憧れだったお前が
また急に変わっちまった」

中三の時だ。

人間関係に失敗して、
素の自分を出すのが怖くて
地味なキャラになってしまった。

「せっかく今まで追いかけてきたのに
なんだよって思った。
でも、二回目の変わりようを見て
支えてあげたいって思っちゃったんだよな」

「誰よりもお前のそばにいたい、そう強く思った。
そん時からだ、この気持ちが恋だって気づいたの」

「高校別れちまったら諦めようと思ってたんだけど、ここで見つけたから」

そんな風に思っててくれたんだ。
ありがたいな。

本当はずっと怖かった
変わった私をみんながどう思ってるのか。

ちゃんと受け入れてくれてるのか
どこかで笑われてるんじゃないか
って考えてしまう自分がいた。

変わらなきゃよかったって思う日もあった。

でも、そんな私を受け止めてくれた人がいた。
支えてあげたいと思ってくれてる人がいた。


なんでもっと早く気づけなかったんだろう。

「そうだったんだ。
なんか照れるな、でもありがとう。
今のでちょっと元気出た」

「おう。
これからは辛いこととかあったら
俺を頼れよ?
お前は時々無理するからな」

「なにそれ彼氏みたい」

「彼氏だろ」

ほんのり赤く染まった頬

私たちは微笑んだ


これからは彼氏彼女としていられるんだ。

そう思うと胸が熱くなってた

「これからもよろしくね」

「こちらこそ、よろしくな」

あの日、紗友莉さんが言ってくれた言葉通り。
私は一人では生きていけない。
でもそんな私を支えてくれる人が現れた。

これから先、どんなことがあっても
お互い支えあって生きていこう
そう思った。


夕日が半分顔を出し、
オレンジ色に染まる通学路に伸びる二つの影

同じ時間に何度か歩いたことがあるのに
今日は特別明るく感じた