「よっ」

玄関を開けると、前に会った時とあまり変わらない長谷部がいた。

少しくらい焼けてもいいように思える肌を見て

「変わってないね」

「1ヶ月じゃそう変わんねぇだろ。お前は、前会った時とは違う化粧してんのか?」

「よくわかったね」

今回は以前とは違った薄化粧をした。

お母さんにも普段とあまり変わらないとつっこまれたのに、それに長谷部は気づいてくれた。

会えるだけで嬉しいのに、ちょっとした変化にも気づいてくれるなんて

もっと好きになっちゃうじゃんか。

「片山みたいなやつでも化粧すんだな」

それは学校での私から=化粧というワードが連想できないと捉えたんでよろしい?

「…似合ってんじゃん。服も髪も」

照れくさそうに言うと歩き出した。
ももかと出かけた時に買ったワンピースに、少しだけ巻いた髪。

「似合ってる」の五文字が忘れられない私は、そわそわして長谷部のあとについて行った。

「ありがとう」

今私が伝えたいのは、この五文字だ。

喫茶店までは少し距離があるけど、ちょっとでも話せる時間が多いと思うと嬉しくなる。

「甘いものがだめって、ケーキとか無理なの?」

突然の質問に戸惑いながらも

「んーそうだね、抹茶とか、苦めのチョコならいけるかな」

「そうか。まぁ今回行くとこには、片山が食べれそうなもんはあるな」

「悪いね、合わせてもらっちゃって」

付き合いたてのカップルか!
とつっこみたくなる甘い時間だった。


目的地に着いてからは、
二人でいる雰囲気にも慣れ、
コーヒー片手に、友達同士の会話を楽しんだ。

夏休みは何してたのー?
とか
最近買ったほんの話とか。

一番盛り上がったのは中学の話。

中一の失敗談を、今となっては笑い話に変えられる。

「初めて見た時は殺されるかと思った」

「そんな風に見てたの?」

話すことに抵抗はあったけど、
長谷部になら打ち明けてもいいかと思えてきた。

「人ってほんとに変われんだな。
あの時の片山を見てそう思ったよ」

「お前、すげぇな」

珍しく真剣な顔で褒めてくれた。

「それは紗友莉さんがいてくれたからだよ。
あの時出会ってなかったら、今の私はいないと思うから。」

懐かしい思い出話に、思わず微笑んでしまう。

「お待たせしました。
抹茶ケーキとガトーショコラになります。」

綺麗だな。

ケーキを運んで来てくれたスタッフに見とれていた。

「コーヒーのおわかりはどうされますか?」

「「おねが…あ。」」

やば、ハモった。

恥ずかしくなって下を向いた。

「お願いします」

何事もなかったかのように答える長谷部。

「彼女さんはどうされますか?」

「え!?あ、お、お願いします」

「かしこまりました」

大学生くらいのスタッフ
ずっとにこにこしてたなぁ。

「お前、いつから俺の彼女になったの」

「は!?彼女じゃないし!」

思わず声を上げてしまった。

「そうか。でもさっきの戸惑い具合…
やっぱりなんでもない」

「長谷部って、時々私のことばかにするよね」

「…いつもだけど?」

なっ!

こいつ、私のことどんな目で見てんだよ。

「お待たせしました」

さっきのスタッフが笑顔でコーヒーを運んできた。

「そう言えば放課後残ってたけど、
野崎となにはなしてんだ?」

げっ、それ聞く?

「そ、それはー。
恋愛相談よ!ももか、好きな人がいるみたいで、そのことについて話してたの!」

「ふーん」

お願いだからこれ以上踏み込まないで!

「恋愛に興味がないお前で大丈夫なのか?」

「ばかにしないでよ!これでも一応女ですから」

なんか今日は感情的になるな、私。

「なんか今の片山、前より女の子らしくなったな」

「なにそれ褒め言葉?」

一旦冷静になろうと深呼吸した。

「高一の時の雰囲気は、ちょっと怖かったけど。
今は柔らかいって言うか」

「それはどうも」

とにかくこの話を終わらせたい私は、
そっけなく返事をした。

ふった女の前でこんな話よくできるな
私は申し訳ない気持ちでいっぱいなのに。

「んー、抹茶も悪くないな」

「あ!それ私の」

うつむいていた私は感想を言われるまで
ケーキを取られていたことに気づかなかった。