今日は終業式。
先生の長い話が終わって、夏休みの始まりのチャイムが鳴った。

「あれ、成瀬ちゃん帰らないの?」

ももかに声をかけられた。

「ちょっとやることあるから。」

やることなんて何もないけど昨日から誰もいなくなった教室の雰囲気が気に入って、しばらく残っていたかった。

グランドには野球部にサッカー部。
音楽室には吹奏楽部。

教室には私以外誰もいない。
やっぱり一人でいるのも悪くない。

「なんかいいな〜」

そう思って窓から見える外の景色を見た。

キーンコーンカーンコーン

「今日もまた三十分ぼーっとしてたのか」

「お前ほんとにぼーっとするの好きなんだな。ばぁちゃんみたい」

ガタン!

またいたの?
毎回この時間になると現れるな。
なんなんだこいつは。

「ビビりすぎだろ」

笑いながら近づいてくる長谷部に

「悪かったわね、おばぁちゃんで」

少し怒り気味に答えた。

なにか用?と聞くと

「昨日話した買い物のことなんだけど、明後日でもいいか?」

いきなりだな。まぁ暇だしいいか。

「いいよ、行くとこ決めてんの?」

誰もいない教室で、二人きりでいることが急に恥ずかしくなった。

うるさい心臓。
上がる体温。
周りの音が聞こえない。
やばい、長谷部の顔見れない。

「片山?どうかしたか?顔赤いぞ」

まずい…!どうしよう。

ここはひとまず

「へ、平気平気。じゃあ明後日ね!他何かあったら連絡して?」

逃げよう。
長谷部と目を合わせないようにして。

鞄を握り、勢いよく椅子から立ち、ダッシュで学校を出た。

ちょっと強引すぎたかな、傷つけてないかな。

帰り道の途中で逃げたことを後悔した。
後で謝ろう。