手にしたものと失ったものと

僕は、左目の瞼の上に傷跡がある。
小学生のときに、旅行先で付いた傷だ。
僕の育った家庭は父子家庭だった。
釣りが好きな僕の父親は休みさえあれば僕を連れて海釣りに行っていた。
僕はといえば釣りに興味はないから、退屈で仕方がない。
父親が釣っている間は、その近くで適当に遊んでいた。
その時は、和歌山の磯の岩場で。
岩によじのぼって遊んでいた僕は、足を滑らせて落ちたのだ。
とがった石に顔を打ち付けた。
血がどくどくと流れる。
助けてと叫ぼうとしたが声が出ない。
父親はそんなことも知らずのんきに釣りを続けている。
痛みをこらえて、ふらふらと立ち上がり、父の肩をたたく。
呆然とした父が、病院に僕を連れていく。
医者は失明しなかっただけ運がよかったと言った。
だが、瞼の上に大きな傷が残った。
瞼から眉毛にかかるほどの広さで、肉が浮き上がっている。
はっきり言って、醜い。
自分で鏡を見て、吐き気がする。
以来僕は、自分に自信がなくなり、俯いて正面を見ないようになった。
傷跡のある左目の前髪を伸ばし、できるだけ傷跡が見えないようにして生きてきた。