手にしたものと失ったものと

きっかけは些細なことだった。
美術の時間に二人一組で互いの似顔絵を描くという課題があった。
たまたま僕がペアを組むことになったのがその子……柏木葵だった。
女子とペアを組むなんて……。
僕は内心、気乗りしなかった。
大体が仲の良い友達同士で組むのだが、組んでくれる友達が見つからない場合は、強制的にはぶれた者同士で組むことになる。

「なんだ、お前らまだペアが決まってないのか。ちょうどいい、二人で組みなさい」

無神経な美術教師の一声で、女子と組むことになってしまったのだ。
僕がうつむきながら無言で椅子に座ると、向かいの椅子に座った柏木さんが淡々とした声で言った。

「高野君だよね。よろしく」

僕は上ずった声で、

「よ、よろしく」

と答えた。
接点がないのに名字を覚えられていたのが不思議だった。
いや、クラスメイトなんだから覚えられてても当たり前かもしれないけど。
僕が、のろのろとデッサン用の鉛筆を取り出したりしている様子を、柏木さんはじっと見つめる。
え?
なんなんだ、これ?
なんでそんなにじっと僕を見つめるの?
僕は心臓がバクバク鳴っているのを感じながら、何とか問いただす。

「あ、あの、どうしたの?」
「え? なにが?」

質問に質問で返された。

「えと、さっきからじっと見てるから……」

すると彼女は首をかしげる。

「絵を描くのだから、対象を観察するのは当たり前でしょ?」

あぁ、なるほどね……。
よく見ると、柏木さんは手際がいいのか、もう画用紙もデッサン用の鉛筆もその他もろもろの道具も用意している。
僕は意識しすぎた自分が恥ずかしくなった。
ポリポリと頭をかいて、椅子に座りなおす。

「変なこと聞いて、ごめん」
「ううん。別に」

相変わらず柏木さんの声は淡々としていて、そして言葉が簡潔だった。