心臓がうるさい。
おちつけ!

あーもう。無理無理無理!

いや、だめ。がんばれあたし!
…息を呑み。かける。


呼び出し音がする。
ドキドキしてしょうがない。
いち…に…さん…よん…

はい?

あぁ。この声。
低くて、甘い。大好きな声。

急にすみません!
ち、ちづるです…。
今、大丈夫ですか?

と言うと。

うん。大丈夫だよ。

少し構えるような空気感。
ほんのちょっと声が低くなった。

あ、あの。お花が。届いて!
すごくビックリして!
あ、あの、すごく嬉しかったです!
ほんとに、すごく、ビックリして。
あ、ありがとうございました!

一気にしゃべり終えると。

電話の向こうで、クスクス笑っているような。

いや、そんな気にしないで。
俺の方こそ、すぐお礼も言わないで。
あれ、どうもありがとう。

少し照れているような声。

ああ、今どんな顔をしてるんだろ。
会いたい。
やっぱり、顔見て話したい…。
ちゃんと。一度でもいいから。

先輩!
話したいことがあるんです。
明日、時間ありませんか!?

…言ってしまった。



返事が来ない。


空いた時間に、くじけそうになった時。


明日、急にバイトを交代したから。
夕方から、バイトなんだ。

そ、それならお昼なら…!?と、
言おうとした、あたしの声をさえぎって。

今から、出てくる?


…え?

一瞬、理解不能になり。
今から??
全く予想もしてなかった返事に。

ど、どこへ行けばいいですか?
行きます。あたし。大丈夫です!!

前のめりに答えるあたしを。
また少しクスクス笑って。

じゃあ、そこから近くのバス停のとこに。
七時半に。
車でひろうよ。と。

わ、わかりました!じゃあ後ほど!
よろしくお願いします!


電話を切って。
痛いくらいの心臓に気づく。

これから。
先輩と。ウソでしょ?
ウソ…みたい。でも。
嬉しい!


あ、急がなきゃ!
会ってどうなるかなんて、わからないけど。
今は、急ごう。
ちょっとでも、可愛く見られたい。
急がなきゃ!!

これでもない、あれでもないと大騒ぎの
あたしの横で。

大きなバラの花束が、甘い香りをふりまいていた。