その頃…
城付近に到着したチルは…
チル:「おーーー、お城の周りはこんな風になってるのか〜」
チルは、城周りで1番高い丘に登って街を見渡した。
街はお城を囲むよう、段々状に作られていた。
チル:「私はお城に行かないといけないけど〜、少しぐらい寄り道してもいいよね〜」
街に降りて行ったチルは、商店街を回った。
商人:「お嬢ちゃん〜、かわいいね〜、かわいいお嬢ちゃんにはりんごおまけするよ〜」
チル:「美味しそうね!でも今お金持ってないの。」
チルは人目につかないところへ隠れた。
チル:「ふぅ〜、あんまり初めて会う人と人話す機会なんて村ではないから緊張した〜」
そう言って、チルはヒョイっとジャンプした。
すると、空をスイスイ飛び始めた。
チル:「久しぶりに飛ぶな〜、人に見られないようにしなきゃ!」
チルは、空高いところまで急いで飛んだ。
雲付近まで行くと、城の中庭を見つけた。
チル:「おーー、良いとこ見つけた♩」
チルは、中庭に降りて辺りを見渡した。
チル:「さすがお城…!大きい!」
庭だけでもチルの家2軒分はありそうだ。その庭にはたくさんの植物が植わっていた。
その内の一本、少ししおれている花があった。
チル:「元気がない…」
そう言ってチルは花に触れた。目を閉じて念じるとチルの手から緑の光が出て花をぼんやりと包み込んだ。たちまち花は元気を取り戻し対応の光を浴びのびのびと咲いていた。
チル:「元気になってよかったね!これでしばらくは大丈夫だと思う!」
チルはご機嫌にスキップしながら周りの草花を鑑賞した。
??:「何してる!こんなところで!」
チルはビクッとして後ろを振り返ると背の高い男が立っていた。
??:「ここは城だぞ?お前のような下民が来るような場所ではない。」
チル:「下民!?ふざけないで!初対面の人にそんなこと言われる覚えはないわ!」
??:「じゃあお前は誰だ?なんでここにいる?」
チル:「あなた知らないの?私はここに呼ばれて来たのよ?」
??:「え?お前…名前は?」
チル:「私の名前はチルよ。チル・ムーン・アリス。」
??:「…嘘だ!お前のようなちんちくりん、俺は認めないからな!」
そう言ってどこかに走って行ってしまった。

しばらくするとジルが乗っている馬車が城に到着するのが見えた。
チルは、中庭からジルがいるところまで駆け寄った。
ジル:「チル!無事に着いたんだな。よかった」
チル:「そんなことはどうでも良いの!ジル聞いてよ!すっごく失礼な人に会ったの!」
ジル:「どんな風に失礼だったんだよ笑」
チル:「私のこといきなり下民だとか言い出して、しかもちんちくりんって言ってきたの」
ジル:「下民はともかく…ちんちくりんは合ってるぞ?」
チル:「ジルまでそんなこと言うの!?覚えていなさい…私を怒らせるとただじゃ済まないんだから!」
使いの人A:「チル様は、相当ご立腹の様子で…どうされます?今日王子に会われますか?」
チル:「もちろん、さっさと終わらせましょ!」
ジル:「機嫌直せよ…今から婚約者に会うんだぞ?」
使いの人B:「ともかく!今から着替えをしていただきます。」
チル:「…わかったわ。」
チルは納得いかなかったのか、不機嫌そうな顔で着替えに行った。
ジル:「俺はどうしたら良いですか?」
使いの人A:「ジル様はそのままで結構です。あくまでも王子と会うのはチル様なので。」
20分ほどたったとき、チルが着替えを済ませて出てきた。
薄い青のドレスを着ていて、髪を一つに束ねていた。
いつもは化粧を全くしないチルも今回ばかりは化粧をしていた。
ただでさえ、美しいチルは化粧とドレスの効果も相まって、より一層美しく見えた。
チル:「かかとが高い靴なんて履かないから慣れない…」
ガクガクしながら歩いて来るチル。
チル:「どう?似合う?」
ジル:「うん…」
何目逸らして恥ずかしそうに言った。
チル:「何?照れてんの?笑笑」
ジル:「て、照れてねーし!」
使いの人B:「ジル様ジル様!」
ジル:「何ですか?」
少し不機嫌なジルの返事にもおかまいなしで陽気に話しかけてくる。
使いの人B:「私はジル様のこと応援してますから!」
ニヤニヤしながら頑張ってくださいと使いの人Bは言った。
ジル:「?なんのことですか?」
使いの人B:「え?ジル様はチル様のことが好きなんじゃないんですか?」
ジル:「え!?いや、お、俺べっ別に!すっ…好きとかそんなんじゃ…」
さっきまでの冷静な態度とは裏腹に耳まで真っ赤にして、なんだか可愛いと思った。
使いの人B:「いやいやいや!なんでもないです!さっきの質問忘れてください。」
使いの人B:(ジル様…可愛いとこもあるなぁ♡)
あんまりにも動揺するので、それ以上聞くのはやめた。
ジル:「そんなに俺、態度に出てますか?」
使いの人B:「えぇ。出てますね。でもチル様は気づいていないようですが」
ジル:「このことは秘密にしてください。」
それだけ言うと、チルの後を追って走っていった。
チル:「どこにいるの?王子様は?」
使いの人A:「こちらでございます。」
チルとジルが通された部屋はとても立派な大きな部屋だった。
使いの人A:「もう少々お待ちください。」
チルは部屋の中にある大きなソファーに腰をかけ、隣にジルも腰をかけた。
チル:「私、王子様と結婚しないといけないんだよね?」
ジル:「まあ、さっきの話を聞く限りそういうことになるな」
チル:「どうする?性格悪かったら。」
ジル:「その時は俺が嫁にもらってやるよ。」
チル:「何ジョーダン言ってんの?笑笑」
ジル:「…気晴らしになるかと思って…」
ジル:(冗談じゃないけどな…)
チル:「うん!気晴らしになったよ!ジルもしばらくお城にいてよ。」
ジル:「そんなことできるかよ!2、3日経ったら俺帰るよ。」
そんな話をしていると煌びやかな服を着た背の高い男が入ってきた。
チル:「…え?」
??:「気づくのおせーよ。バーカ。」
チル:「うわーーーーーーーー!絶対やだー!!!!!!!!」
チルはその場で頭を抱えた。
チル:(なんで?あの失礼極まりないやつが王子?しかも使いの人たち、女性の憧れとか言ってなかった?あんな奴のどこが?そもそも王子のくせに礼儀がないじゃない!)
ジル:「おい!大丈夫か?」
チル:「うん。これから先の人生が一気に不安になっただけ。」
いつも能天気なチルがここまで嘆いているのを見ていつも一緒にいるジルもさすがに心配になった。
ジル:「さっき言ってた失礼な奴ってこの王子様か?」
チル:「うん。」
使いの人A:「もう王子のことをご存知でしたか!?では説明が早いですね。前にも説明したようにヤシャ王子でございます。」
ヤシャ王子:「どうも。ヤシャ・アン・グランチャードだ。俺みたいなイケメンと結婚できるなんて感謝しろよ。このちんちくりん娘。」
チル:「ねー!聞いた!?こいつこの調子でさっきも私に話してきたのよ?」
ジル:「まあ…ちんちくりん娘以外は確かに失礼だと思うが…」
チル:「ジルまであいつの味方!?」
ヤシャ王子:「おい!さっきから聞いてれば俺のことあいつとか言いやがって、俺だってお前なんかと結婚するなんて嫌だからな!」
ヤシャは小さな子供のように口を膨らませてそっぽを向いた。
チル:「小さい子供見たいね!その口もう失礼なことが言えないようにしてやる!」
チルは手をかざした。するとヤシャは喋れなくなってしまった。
身振り手振りで使いの人に紙とペンを持って来させて筆談でチルに文句を言った。
使いの人A:「『どう言うことだ。喋れるようにしろ。このちんちくりん娘』だそうです。」
ジル:「戻してあげろよ…?」
チル:「謝るって約束してくれたらね。」
使いの人A:「『誰がお前みたいなちんちくりんに謝るか。さっさと元に戻せ!』だそうです。不出来な王子ですみません…」
チル:「また失礼なこと言ったら次は元に戻さないからね?」
チルは手をサッと横に振った。
途端に口を開いて喋り出した王子はたいそう怒っているようですぐに部屋を出て行った。
使いの人A:「すみません…一国の王子がこんな失礼なことをしてしまい申し訳ないです。」
本当に申し訳なさそうにうなだれた姿を見てチルの怒りは和らいだ。
チル:「会ったのはいいんだけど、あれからあの傲慢王子と結婚するのなんてまっぴらゴメンなんだけど…」
使いの人A:「でしたら、1週間お試し期間だと思って結婚した夫婦感覚で暮らしてみてはどうでしょう?もしかすると意外な一面が見えてくるかもしれませんよ?」
ジル:「試してみたら?気に食わなかったらだだこねてみろ。」
チル:「何それ?私がわがまま少女みたいじゃない!?」
ジル:「実際そうだろ?」
口を膨らませて怒っているチルを横目にジルは話を続けた。
ジル:「今まで散々世話になったんだ。これくらい我慢しろよ!1週間だろ?」
城の人たちは今までチルが魔法でやらかしてきたことをたくさんもみ消してくれた。
新種の動物を生み出したり、川をジュースにしたり、それはそれはそれはたくさん。
チルも自覚があるのか、膨らませた口元も徐々に小さくなっていった。
チル:「わかったよ!1週間だけなら…」
使いの人A:「お受けしただけましたね!ありがとうございます。では準備いたします。」
使いの人B:「どうぞ、ジル様も城にお泊まりください。チル様のご友人ですし、チル様お独りでは不安でしょう。」
ジル:「じゃあ、お言葉に甘えて…」
チル:「ほんと、ジルがいなかったら私頑張れなかったわ…」
ジル:「…チル…よくそんな恥ずかしいこと言えるよな…」
チル:「?何が?」
ジル:「なんでもない。」
ジルの耳は少し赤いように見えた。
その日は王子の機嫌も悪く、王子関係のことは特に何も進展はなかった。
客室に通され、その日はその部屋を使うようにと言われた。
チル:「すっごい…さっきの部屋もすごかったけどこの部屋もすごい…こんなところに住むのかぁ…ちょっと気疲れしそう…」
村のボロボロのベッドとは大違いで、フッカフカの布団で雲の上のようだった。
その時、コンコンっとドアを叩く音がした。
チル:「どうぞ〜」
使いの人B:「失礼します。今日はお疲れになったでしょう、ゆっくりお休みになってください。隣のお部屋がジル様のお部屋になっております。いつでもお会いになれますよ。」
にっこり笑ってそれだけ言うと部屋から出て行った。
チル:「はぁー、輝かしい王族生活は無理かなぁ」
チルはベッドの上で大の字になって天井を見上げた。
勢いよく飛び起きると、裸足でジルがいる隣の部屋に向かった。
チル:「ジル!暇!!」
ジル:「っ!…びっくりした…!ノックくらいしろよ!」
ジルはもう寝る準備をしていたようで眠たそうにそう言った。
ジル:「暇なら寝ればいいだろ?俺はもう寝る…zzz」
ジルは相当疲れていたようでそれだけ言うとすぐに寝てしまった。
チル:「えぇ〜、寝たの?私まだ寝たくないんだけど…あっ!ひらめいた!」
チルは油性ペンを手にしてジルの顔に落書きし始めた。
チル:「ふふっ…カンペキ♡笑笑」
チルは部屋から出て行って自分の部屋に戻ってよく眠れるよう呪い(まじない)を枕にかけて眠った。その日の夜はとても涼しい夜だった。