〜10年後〜
ジル:「チルー、起きろー!」
チル:「えー。まだ眠い…あと2時間…」
ジル「…チル…今日なんの日だと思う?」
チル:「…あーーーーーーー!!忘れてた!」
チルはベッドから飛び起きて、長い髪を鏡の前で梳かし始めた。
ジル:「もう9時だぞ?使いの人何時に来るの?」
チル:「9時!」
慌ただしく準備をし始めたチル。今日はチルの16歳の誕生日。
王族として正式に向かい入れられる日だ。
チルは村でも評判の美人に成長した。
あの近所の子BもAもチルに告白してきたほどだった。
ジル:「お前それ着て行くつもりか?城に行くんだろ?」
チル:「え?何か変?」
チルの髪と同じように白い服。下には白いズボン。
全身真っ白だからこそ目立つチルの緑色の目は、宝石のようにキラキラと光った。
ジル:「変じゃないけど、目立つぞ?」
チル:「いいのいいの!どーせお城に行ったらドレスみたいなやつ着るんでしょ?今くらい自由に動けるズボンがいいじゃん!」
そう言って、側転し始めた。
一国の女王になるというのに、この有様。とっくに迎えにきていた使いの人も呆れ顔だ。
使いの人A:「そろそろ行きますよ!チル様。馬車に乗ってください。」
チル:「えーー、もうちょっとくらい良いでしょ?」
使いの人B:「ダメです!王子も待ってますよ!」
チル:「王子?」
使いの人A:「もしかして説明してませんでしたか!?それは申し訳ありません。
一国の女王になるのはご存知ですよね?ですが、すぐになれるわけではないんですよ。
しばらくは見習い同然です!王様は3年前に亡くなられましたので、それからずっと王子が国王の代わりとしてやってこられました。
ですが、掟としてはチル様が国を治めるためには王子と結婚し、二人三脚で国を治めるようにと前国王がおっしゃっておりました。つまり、チル様は王子と結婚してお二人で国を治めるということです。」
チル:「は?」
ジル「は?…」
2人は目配せして口をあんぐり開けた。
チル:「ちょっと待って。結婚なんて聞いてない!会ってすぐに結婚なんて…」
使いの人B:「そんなこと言われましても…これは掟です!今更そんなことを言われても困ります。」
チル:「嫌!私王子の見た目も性格も全く知らない!好きでもないのに結婚なんてできない!」
使いの人B:「ご安心を。王子は国中ーーの女性たちを虜にするほどのイケメンで評判です。チル様もきっとお気に召すと思いますよ。」
使いの人A:「王子は国中の女性の憧れ。結婚できるなんてさぞ羨ましがられると思いますよ?」
チル:「そんなの関係ない!顔ははっきり言ってどーでもいい!ジルからもなんか言ってよ!」
ジル:「……一回会って見たらどうだ?俺も連れってってくれよ?」
チル:「何言ってるの?頼まれなくても連れて行くよ。」
ジル:「チルは呑気だな〜」
チルはニコニコ笑っている。どんな奴とも知らない奴と結婚させられるかもしれないのに。
ジルは今にも泣き出しそうなほど暗い気持ちになっていた。
使いの人A:「では、城へ参りましょう。」
チル:「ジル!お城行くって!早く乗ってー」
そう言ってチルはジルを馬車に乗せた。
ジル:「チル、乗らないのか?」
チル:「ふっふっふ…私は瞬間移動ができるのだよ?覚えていないかい?わざわざ時間がかかる馬車には乗らないよ笑笑」
ジル:「そうだったな。じゃあ俺は馬車で行くよ。知らないやつにはついて行くなよ?」
チル:「分かってるって!ジル、お父さんみたい笑笑」
チルはそう言って、ジルたちから離れた場所へ行った。
手を体の前で重ねて息を吐く。
遠くからでもわかる。さっきまでのチルの面影は感じないほどオーラを変えた。
使いの人B:「チル様の魔法を使う姿。初めて見る。」
ジル:「チルは、本物の天才だ…」
見慣れているジルですら息をのむ光景。
チルの周りだけが光って見える。
チルが手を離し、空に手を掲げた。
次の瞬間、勢いよく手を地面の方に差し出した。
一瞬にして辺りが明るくなり、次見たときにはもうチルの姿はなかった。
ジル:「あいつはもう城の近くまで行ったはずだ。俺も早く合流したい。何分ぐらいで着きますか?」
使いの人A:「そうですね。急げば40分くらいですかね〜?」
ジル:「わかりました。できるだけ急いでください…チルの才能は魔法だけではないので…」
ジルはそう言って大きなため息をついた。窓の外の遠いところを見つめるようにしてジルは外を見ていた。
懐かしい風景が遠ざかって行くのをどこか寂しそうに…