開口一番におはようと、教室に入って来たのは、馬場タカアキだ。高校でできた初めての友人だ。馬場は明るく、あけぴろげな性格をしていると思う。

「あのさ、小早川のこと可愛いとおもうか?」馬場は恥ずかしそうに訊いてきたのが、四月のはじめで、まだ、友人とは言えるほどの会話もしていない時期だった。

小早川が誰なのかも知らないぼくは、どの子と、ききかえして、あの子と、馬場が指差して、はじめて、小早川の名前と、顔が一致した。

「可愛いほうだと思う」そうこたえた。

背が低く、くりっとした目にツインテールでふわふわした感じ。リスっぽい印象が小早川アキだった。

可愛いほうだと言ったぼくに、馬場は焦った表情で、「まじか、ねらってんの?」なんて訊いてくるから、ぼくは、「ねらってない」と、こたえ、今はね、と言葉をつけくわえた。

安心した馬場は言った。

「小早川とは、幼なじみでさ、オレずっと好きなんだよ」

「じゃあ、誰かにとられないようにしないとな」そういうと、馬場は、表情を曇らせて、ああ、とこたえた。

自分の経験からでた言葉だったが、馬場は少し考えたのかもしれない。好きな人が他のだれかのものになることを。