八神はじっとぼくをみていた。品定めと、いうよりは、ただみつめている。人形をみるみたいに。

ぼくは、少したじろいでいて、言葉が出なかった。予想外もいいところだったから。

「久しぶりと言うのは、少しおかしな表現ね。初めましてと言うべきなのかしら?」

「そうだね、どちらもおかしい挨拶だと思うけれど、初めましてが正論なのかもしれない」とぼくは答えた。

ぼくたちは、挨拶すらしたこともなかったからだ。同じ中学校で存在は知っていたけれど、顔見知りとも言いがたい。

「八神さん、君がこんな高校に来ているとはおもわなかった」

「どうして?」

「君はとても成績がいいと訊いていたから」

「そう、わたしはあなたが思っているほど成績がいいとはかぎらないわ。それにあなたは、ずっとわたしを避けていたでしょ?わたしはなぜあなたに避けられていたのかがわからなくて、ずっと気になっていたの。それはもう毎日、あなたに避けられるような何かをしたのか、傷つけるような何かをしたのかと、わたしは毎日悩んだのよ。」

「それで小早川さんにぼくを紹介してもらうようにしたのかい?」

「いいえ、あなたがわたしを避けていた理由は大体想像がついたわ。わたしはあなたがすきなのよ。毎日、あなたのことを考えるくらいに」

彼女は淡々とぼくに告白をした。はじらいもせずに。していたのかもしれないけれど、八神の表情は冷静そのものだった。

それにひきかえ、ぼくは、動揺を隠す事ができず、ただただ押し黙ってしまっていた。そんなぼくに彼女は立て続けに「真田君、恋人になってください」と、言った。