そのロマンティックなジャータイプの容器からボディークリームをすくい上げ、南 可那は足に塗り込んだ。
時計を見ると、家を出る予定の20分前。
まだまだ時間には余裕がある。

来月、mellow luxeから初のボディーケアシリーズがついに発売する。
人気の調香師がブレンドした香りはバニラとイリスとほんの少しのアンバー、そしてハーブエキスで構成される。
それは今までのメロウのターゲットばかりでなく大人の女性にも訴求するような、甘くて深い魅力的な香りだ。
決してベタつかないテクスチャーは塗った直後に吸い付くようなハリのある後肌を実現する。
このボディーバターロイヤルを念入りに足に塗り込みながら、可那は自分の太もものなめらかな感触を楽しんだ。

ボディーケアは夜のお風呂あがりには欠かさないし、特別な日はこうして朝もする。
今日は午前中に友利と新店に挨拶に伺うスケジュールだ。
嬉しくて昨夜から何度も顔がにやけてしまう自分が可笑しかった。

あの倉庫の一件から、可那は友利の事が気になって仕方がない。
その昔、キスされた事件の後もしばらくはこんな風に気にはなっていたけれど、ほんの少し迷惑な気持ちもあった。
あの時と違って、今は毎日出勤するのが楽しい。
少しくらい仕事が立て込んだって気にもならない。
恋の力はすごいし、この久しぶりの高揚感を女子力アップに使わない手はない、と可那は思っている。

いつのまにか1LDKの部屋いっぱいに、ボディークリームの香りが広がっている。
いつまでも香り残りが強い特徴を分かりきった上で、可那はわざと念入りに足にボデイクリームを塗り込んだ。
『この香りは男を惑わすよね。』と、数日前に友利が笑いながら営業と話していたのを可那は聞き逃さなかった。
本当はのんびりしていて隙だらけの友利を夢中にさせるなんて、とても簡単な事のように可那は思う。
今日は取引先へも行くし、きちんとした、でも大人っぽいスーツを着ようと心に決めていた。
ボディーケアを終えると、黒のパンツスーツに可那は着替えた。