駅から繋がる地下街を、人混みを縫うようにみちかと乃亜は手を繋ぎ歩いた。

履き慣れたはずの黒のローヒールの足取りが重い。
それは自分だけではなく乃亜も同じようだった。

テナント店が並ぶ地下通りのウインドウにうつる自分達の姿は、見る人が見ればすぐに分かるお受験親子ルックだ。
それが今は無性に気恥ずかしく感じて、とにかく早く自宅へ戻りたい、そんな風に心が小さく悲鳴をあげている。
終わったらデパートの甘味処で、かき氷でも食べていこうなんて考えていた事もすっかり忘れてしまうくらい気持ちは沈んでしまっていた。

乃亜のプリントの出来栄えは、半分が不正解。
しかし、今日の問題はまだ基礎に近く、明日明後日と徐々に難しくなっていくという。
更にルツ女の考査では毎年行われる、先生と一対一の対応を見られる個別試験も、受け応えの声が小さく元気が無いと南野に注意されてしまった。
唯一救われたのは、集団行動や自由遊びの分野で、サンライズでの対策の成果か乃亜は南野に絶賛された。
周囲との協調性は抜群だし、お友達に譲る配慮もしっかりできる。
あとはキラリと光る何かが欲しい、それがないとルツ女は難しいし、聖セラフにおいても同じ事が言えると、辛口の南野はハッキリと言った。

地下街から階段で地上へ上がる。
途端に夏の午後の暑さがみちかと乃亜に襲いかかる。

「ママ、暑い…。」

乃亜が小さく呟いた。

やっぱりかき氷を食べさせてあげれば良かったとみちかは少しだけ後悔した。
明日の帰りは立ち寄ろうね、と約束しながら頭の中で今日の夜の勉強の計画を立てる。
明日の夏期講習が、とても心細かった。
今の状況を理解して、気持ちを分かってくれる存在は百瀬しか居ないとみちかは思った。
百瀬に会いたい、会ってたくさん話を聞いて欲しい、そう思った。

泣きたいような気持ちをなんとか抑えながら、乃亜の小さな手を引いてみちかはひたすら焼けるようなアスファルトの上を歩いた。