子どもを教室へ送り出すと、母親たちはその隣の教室からマジックミラー越しに様子を見ることが出来た。

座学は、幼稚園で慣れてはいるものの、お教室では初めてなのでみちかは不安に思いながら乃亜の様子を見守った。
全部で12名の女の子たち。
皆、ルツ女を目指しているだけあってとても優秀そうに見える。
母親たちも、紺色を着用している人が多くてサンライズとは違った緊張感をみちかは感じていた。

7月の頭に夏期講習の申し込みの間に合うお教室を探し、ひばりに相談したらここを勧められた。
ひばりの息子の翠くんも、受験の時には個人塾と掛け持ちで、夏期講習や模試をここで受けていたそうだ。
問題の質がなかなか良く、ルツ女や敬栄のノウハウを比較的たくさん持っている事も合格者数から感じたらしい。

先生の質問に、子どもたちが元気に挙手をする。
乃亜は、落ち着かないのかキョロキョロとして手を上げられずにいた。
どうやら日頃から、ここの教室へ通っている会員の子どもが多いようで、まだ雰囲気に慣れない乃亜は圧倒されている様子だった。

乃亜がここに馴染んでくれるようなら、サンライズと掛け持ちして直前講習などもここで受けたい、みちかはそう考えていた。
それと、面接対策もだ。

小学校受験において、多くの学校では親子面接が非常に重要視される。
ルツ女は特に父親と子供の関係性などよく見られる傾向にあるようで、乃亜の受験対策から離れてしまっている悟の協力も不可欠なのだ。
最後は、家族3人で気持ちを一つにしないととても受からない、みちかはそう思っていた。
それなので家族揃っての面接の練習を1度か2度は経験しておきたかった。

サンライズでも面接対策はあるのだが、悟と百瀬を会わせる事にみちかは抵抗があった。

誰にも知られることのない密やかな想いであっても、うしろめたさや罪悪感が自分を苦しめるだろう事をみちかは恐れていた。

それに娘の志望校は、ルツ女でなくてはならないという曲がらない気持ちの悟と、乃亜には聖セラフが合っていると一度は見抜いた百瀬を会わせたくはないと、みちかは思っていた。

それぞれに違う特色を持つ私立小学校がいくつもある中で、娘に合う小学校はどこなのか、悟はそこまで掘り下げた事が無い。
百瀬と出会うまでの自分もかつてはそうだったけれど、ルツ女しか見えていない夫を百瀬に会わせる事の恥ずかしさもあった。