午後になり、乃亜の降園時間はあっという間に来て、ひみつのこみちをみちかは1人で黙々と歩いた。

今年は猛暑のようで、ここのところ真夏のような日が続いていたけれど、今日は風があって気持ちの良い日だ。
ミモレ丈のプリーツスカートが風に揺れてふわっと持ち上がる。
その柔らかなパープルの色合いを見て、みちかは少し恥ずかしいような気持ちになった。

日頃から年齢以上に、落ち着いた服を着るよう心がけてきた。
だから、こんな可愛らしいスカートを選んで買った事も、乃亜のお迎えに着ていく事も初めてだった。

昨夜は、乃亜を寝かしつけてからシートマスクで肌のスペシャルケアをした。
一昨日は、爪をファイルして薄いピンクのネイルを塗った。
悟と結婚をして8年経つけれど、自分がこんな気持ちを抱く事になるだなんて思いもよらなかった。

眠っていた細胞が目を覚まして、胸をざわつかせている。
ずっと疑って取り合わないようにしてきたけれど、もうそうもいかないくらい、はっきりと見えてきた気持ち。

ひみつのこみちが終わり、急に視界が開け、目の前には雪村幼稚園が見えてきた。
園庭では、ネイビーブルーのクレマン帽を被った大勢の園児が、帰るコースごとに列を作り先生の指示を待っている。
降園する園児たちのために開かれた門の前に立つ警備員に挨拶をして、みちかはその楽しそうな可愛らしい声が響き渡る園庭へと入って行った。
乃亜はまだ教室に居るようで園庭には姿がない。

「あ、乃亜ちゃんママ!」

1人の女の子がみちかのもとに駆けてくる。

「ゆうかちゃん、こんにちは。」

乃亜と年中の時から同じクラスのその女の子は、みちかが挨拶すると満足そうに戻って行く。
彼女の走って行った先を目で追うとそこにはサッカーのブルーのユニフォームを着た百瀬の姿があった。

1人の園児が楽しそうに百瀬に話しかけている。
背中から抱きついたり、ハイタッチを求める園児もいる。
たくさんの園児の対応を次々とこなす百瀬の姿を、みちかは離れた場所から見つめた。
スッと伸びた背筋、艶やかな黒髪。
彼はなんて若いのだろう、切なくて複雑に色々な気持ちが混ざり合う。
誰にも話す事はないだろうこの気持ちは、言葉にするならどんな表現が適しているのか、みちかはぼんやりと考える。

自分はもう、どうしようもないほど、ただひたすらに百瀬のことが好きなのだ。

賑やかな園庭で、みちかはしばらく立ち尽くしていた。
無邪気に百瀬と向かい合う、子供たちを心底羨ましいと思った。