40分後に終わりを告げるタイマーの音が響きそこから20分ほど審査の時間があった。
審査員達は、皆、クリップボードを手にモデルを至近距離でじっくりと見て回る。
教会音楽のようなアイルランドの歌手のBGMが静かに響く中、その審査は行われた。

10分間の休憩を挟み、いよいよ可那の順番が来た。
くじを引き、ステージへ上がる。
可那の担当するモデルは30代後半の女性だった。
開始を告げる美容部長の声を合図に、「よろしくお願いします。」と、可那はモデルに挨拶をした。

ケープを肩にかけ、髪をピンで留めていく。
見た感じ乾燥肌ではないけれど、毛穴の開きとキメの乱れがやや目立つ。
肌と顔立ちの見極め、使用するメイクアイテムの準備、そこまでをはじめの10分、残りの30分でメイクを仕上げる計画だ。
可那は、大人の色気と可愛さを引き出すイメージを膨らませながら、メイクアイテムの置いてあるコーナーへと向かった。
全て自分の所属するブランドアイテムでメイクするルールだ。
速やかにトレーにアイテムを載せ、モデルの元へと戻った。

まず、肌の凹凸を自然に隠すメロウフィットマットベースを半顔ずつ丁寧に塗り込む。
この時点で、モデルの肌表面はスムースに、そして多少の色ムラは隠れてしまう。
セミマットに整った肌に、メロウリキッドファンデーション03を少なめに、肌の内から外へと伸ばしていく。
時代はツヤ肌が主流だが、今季、池之内ゆりかがあえて打ち出したのは陶器のようなセミマットな肌だ。
可那も上品な池之内流セミマット肌を支持している。
特にモデルのようなアラサー女性には、全体をツヤっぽく仕上げるよりも部分的にツヤ感を演出させる方が今っぽいし上品だ。
丁寧にリキッドファンデーションで仕上げたら、うっすらと気になる目の下のクマをコンシーラーでカバーしていく。
クマよりもやや下の位置に、ブラシでスッとメロウアプリコットコンシーラーをのせてクマに向かって指でぼかし上げる。
このオレンジ色のコンシーラーが青グマをカバーして、なんとも自然な血色感を演出するのだ。
口角と小鼻の横には、肌色に近いメロウトーンアップコンシーラーを少量なじませる。
そしてフェースパウダーの前に、メロウクリーミーチークチェリーレッドを黒目の下あたりから頬骨に沿って指で斜め上へ叩き込む。
青みがかった赤色の、バーム状のチークはセミマットに仕上げた肌に一気にツヤ感を演出する。
チークで大人の魅力を引き出したら、メロウファイナリーパウダーで全体を抑える。
ナチュラルに光を反射するミネラルのレフ板効果でハリ肌を演出したらベースメイクの完成だ。
腕時計を見るとちょうどここまでで20分。
残り20分でポイントメイクを仕上げる、予定通りだった。