16階に上がると、右手に受付があり、広いコンテストの会場へとつながっていた。
所属部署と名前を告げ、27と書かれたバッジを受け取る。
会場には、ステージがあり客席が用意されていた。
出場者席へ座るよう指示された可那の肩に友利が手を載せて、「頑張れよ。」と言った。
友利を見上げ可那は笑顔で頷いた。

全国の事業所から選ばれた30名が今日のコンテストに出場すると聞いている。
アデールの美容部員達に混ざり、可那は出場者席に荷物を置くと、化粧室へ向かった。

手を洗い、鏡で整容の確認をする。
メイクを直し、髪を整える。
昨夜、短くファイルした爪にはメロウビューティーネイルの落ち着いたベージュカラーが艶めいている。
ポーチからメロウリュクスバームを取り出し、手のひらに塗り込み保湿した。

コンテストの話しを友利にもらってから3ヶ月間、何だかんだずっとどこかで緊張してきたと思う。
今日でその緊張から解放されるんだ、という嬉しさと、今日ついに結果が出てしまうんだ、という思いが混ざり合い複雑な心境だった。

手のひらに塗ったバームのバニラとレモングラスのまろやかな香りを胸に吸い込み、ほんの少しだけリラックスして可那は会場に戻った。

10分ほど経った頃、開会式が始まった。
アデールの社長の話しの後、審査員の紹介がありステージ向かいの最前列に着席した人たちが次々と挨拶をする中に、池之内ゆりかの姿もあった。
アデールの制服を着た美容部員ばかりに囲まれた可那は、メロウのブランドディレクターでもある池之内の姿に今日はなんだかとても親近感を感じていた。
いつも遠くに感じている憧れの彼女に、今日は自分のメーキャップを見てもらえるのだ。
可那は祈るような気持ちで、挨拶をする池之内の顔を見つめた。

審査員の挨拶が終わり、司会の美容部長が、今日のコンテストの概要を説明した。

前半と後半に分かれ、15名ずつがステージ上でモデルにメイクを施す。
担当するモデルはステージに上がる直前に、くじ引きにより決定する。
年齢も肌タイプもさまざまなモデルがスタンバイしており、制限時間40分の中で、いかにモデルの美しさを引き出せるか、を競い合うコンテストとなっている。
最優秀賞も含め3つの賞が用意されており、30名の参加者のうち3名が入賞する、という事になる。
まずは、ナンバー15までの出場者がメイクを行う。
可那は出場者席でその様子を見守った。