6年前、営業部の飲み会が終わると外は雨だった。
たまたま家の近くの居酒屋で、可那は徒歩で歩いて帰れる距離だった。
皆、最寄駅へと帰って行く中、友利だけがタクシーで帰るというので、傘を忘れた友利と相合傘をしてタクシーが止まりそうな所まで歩いて送った。

その時は結構飲んでいたし、お互いに酔っていたのだと思う。
歩道で立ち止まり、タクシーを待ちながら友利は何を考えたのかふいに可那を抱き寄せた。
そして傘の中で、突然キスをされた。
可那も友利の事を好きになりそうな時期だったから、そんな風にされ、立っていられなくなりかけた。
それなのにタクシーが止まると、友利は何もなかったかのように1人乗り込んで帰って行ったのだ。

その翌日は、ものすごく気まずい雰囲気になってお互いにギクシャクして、1年ほどそんな感じが続いてしまった。
そんな頃に可那のメロウへの異動が決まり、一度は接点を失った。
まさかその3年後、友利がメロウに異動して来るだなんて思っていなかったので、友利との仲は永久に終わったのだとその頃の可那は信じて疑わなかった。

「良かった、割れてない。もぉ…細川さん、段ボールに詰め込みすぎ…。」

友利が持ってきてくれた別の段ボールに什器を詰め直しながら可那は頬を膨らませた。

「うん、細川にはよく言っておく。良かったよ、君にケガがなくて。」

お店に持っていく什器をメロウのショッパーに淡々と詰める友利を可那は頬を膨らませたまま睨みつける。

時々、君、と呼ぶのやめてもらえませんか?

そう言いかけて、可那はグッと口をつぐんだ。