気づくと女の子の生徒も他に2名、母親と入ってきていた。

時間になり百瀬の指示で、6名の子供たちが並び、お名前を呼ばれたら綺麗に手を伸ばし「はい!」とお返事をするという事から始まった。
それから百瀬が教室に並べられたマット、平均台、跳び箱、フラフープを一通り巡り、子供達にその動きを覚えさせてから1人ずつ順番に同じように動く、という課題を始めた。

他の5名は既にこちらのお教室に通っている子供たちで慣れている様子だったので、みちかは引っ込み思案の乃亜が皆んなと同じように動けるのか心配で祈るように見つめていた。

しかし乃亜の順番が来ると、乃亜は意外にもその課題をやりこなした。
すかさず百瀬が乃亜を褒め、乃亜は嬉しそうにみちかの方を見て笑う。
みちかも乃亜に微笑みかけた。
ホッとして気づいた。
百瀬の話し方に、甘ったるいその声に、さっきからみちかはきゅんとしていたのだ。
見れば見るほど桐戸紡久に似ている百瀬を、いちいち紡久と重ね合わせきゅんとしているのだ、そう思った。
心が高揚し、楽しい。
それは本当に久しぶりに訪れた感覚だった。

支持行動の特訓が終わると、次はたくさんの積み木を6人で相談し合いながら組み立てる
という行動観察の課題に入った。
初めは人見知りしていた様子の乃亜だったが、繰り返すうち徐々に笑顔が出てきた。

あっという間に時間が過ぎ、終了の挨拶を終えみちかの元へ戻ってきた乃亜は「楽しかった!」と満足そうな表情をした。

「では、これからお子さんにはお隣のお部屋でおやつを食べて頂きます。その間に本日の総評をしますのでお母様方はこのままお待ち下さい。皆さん、手を洗いましょうね。」

女性の先生はそう言って、教室のドアを開けた。子供達は手を洗いに部屋を出て行く。
乃亜もハンカチを手にみんなの後に真似をしてついて行った。

講師が百瀬1人になると、親たちは一斉にノートやメモを開きペンを手にした。
今日やった課題を一つ一つ百瀬が解説し、実際の試験の話など交え、どうすればもっと良くなるのかを丁寧に話してくれた。
みちかも手帳に、百瀬の話す内容を細かくメモしていく。

時々、百瀬の顔を見て、目線を合わせながらみちかは真剣にメモを取った。