「やっぱり、全て自宅で対策するのは現実的じゃないかな。」

みちかがそう言い終わらないうちにひばりが「そういえば!」と、目を輝かせ言った。

「乃亜ちゃんの幼稚園て雪村幼稚園よね?確かサンライズ体操教室と提携してない?」

「あ、うん。そうなの。サンライズの先生が体操を教えてくれてるの。ひばり詳しいのね。」

乃亜の幼稚園には提携している外部の体操教室の先生が週の半分以上園に駐在し、体操の時間を担当してくれている。
そればかりか、運動会や遠足、朝の送迎に至るまで体操の先生方が多く関わってくれていた。

「翠の園選びの時に通える範囲内の園は全てリサーチ済みだからね。それより、サンライズって、受験対策の体操教室も運営しているみたいなんだけど、最近結構、そこが合格者出してるらしいのよ。知ってる?」

「え?」

みちかの頭の隅に、昔見た1枚のチラシがうっすらと浮かんでくる。

「そういえば…。体操教室の受験コースがあるって昔チラシで見かけた事あるよ。まだ出来たてだったから入会は検討しなかったの。」

当時は新設されたばかりのコースだったし、そもそもサンライズ自体受験色の一切ない体操教室だったので、さほど学校情報も持っていないだろうと、気にもとめていなかっのだ。

「そう、まだ受験コースは2年目って言ってたかな?でもね、今年、翠の幼稚園のお友達が2人、ルツ女に受かってその2人ともなんとサンライズへ行ってたらしいのよ。体操だけじゃなくて行動観察も見てくれるんですって。確かにまだ実績は少ないみたいだけど結構一人一人きめ細かく見てくれるそうよ。ねぇ、みちか、いいんじゃない?」

「そうなの?知らなかった。いいね、先生に問い合わせてみようかな。」

みちかは、ひばりと話し、一気に心の霧が晴れたような気持ちになった。
1人で悩み停滞していた考えが、やっと動き出したと思った。
そうだ、体操と行動観察は、プロに任せよう。
1人で抱え込もうとするから気持ちが塞ぎ込むのだと思った。

「うん。そうしてみれば。しっくり来るといいね。」

「うん。ありがとう。」

ひばりと別れ、家へと向かう自分の足取りをみちかはとても軽く感じた。
以前、園から配布されたサンライズ体操教室のチラシは、確かまだ取っておいてあるはずだった。
家に着くとみちかはすぐにそのチラシを見つけだし、リビングの時計が14時を指している事を確認した。
乃亜の降園時刻まであと30分、時間はまだ大丈夫だ。
みちかは受話器を取り、そのチラシに記載されている連絡先へと電話をかけた。