ルツ女のお試験は、所謂ペーパーと呼ばれる筆記試験と、絵画工作などのお制作、時間内に子供達に決まった遊びをさせその様子を見られる行動観察と、簡単な体操による運動能力の確認、それと両親も交えた面接だ。

この多岐にわたる内容の中、一番重要視していなかった体操がまさか合否に関わってしまうとは、驚きだった。
乃亜は体操能力が高い方では無い。

「それは初耳だわ。体操は嫌いとまではいかないと思うけど、どうも苦手みたいなの。背も小さいし幼稚園の体操の時間も、皆んなについていくのが大変みたいで。」

みちかはテーブルの上で手を組んだ。
ルツ女はペーパー難関校であり、自宅でペーパー対策をするだけでもかなりの時間とエネルギーを取られる事は想定している。
そこへ持ってきて運動能力を高めてあげる事まで自分にできるとは到底思えない。

「まぁ、運動能力と言っても最後まで諦めない姿勢とかそこを見られるのだとは思うけどね。
ただ、苦手ならば対策はした方が賢明かもしれないわね。行動観察対策は間違いなく必要よ。ルツ女は欲しいタイプがハッキリしているから。」

ひばりの言葉に、みちかは思わず溜め息を漏らしそうになる。
ルツ女の欲しいタイプ、それはお受験情報を調べれば必ずと言っていいほど目にするおきまりの言い回しだった。
私立小学校では、学校生活の統制を取るため同じようなタイプの子どもを取る学校が多いとまことしやかに囁かれている。
本当にそうだろうか、と思ってはいたもののこうして実際受験を経験した、ましてやルツ女OGのひばりの口からそう言われてしまうと本当にそうなのかもしれない、とみちかは思う。

ただそのルツ女が欲しいタイプというものに、乃亜はぴったりと当てはまるのだった。

控えめであり、従順であり、おとなしい事。

時にやや心配になるほど消極的な一人娘が、ルツ女へ行き同じようなタイプのお嬢さんたちと共に学校生活を送ることはみちかにとってとても安心な事であった。

悟はその辺り少し違う意見を持っているようだけれど優秀な子が揃うルツ女に乃亜が通う事を同じく望んでいるようだった。

そんな事もあり、みちかは、乃亜にはルツ女しかないと強く思っていた。