平日の午前中のせいか、サンライズの事務室は職員がまばらだった。

「こんにちは。」

入り口手前のデスクに座る、顔見知りの女性スタッフに声をかけると彼女はすぐに立ち上がった。

「友利さん!こんにちは。」

親しげな笑みを浮かべながら彼女はこちらへ歩み寄って来てくれた。

「どうされましたか?」

「あの、娘が大変お世話になりました。今日、百瀬先生はいらっしゃいますか?」

事務室には見た感じ百瀬の姿は見当たらなかった。
もしかしたら今日は居ないのかもしれない…。
残念なような、ホッとしたようなよく分からないような気持ちになる。

「百瀬ですか?」

そう彼女が言った時、後ろから聞き慣れた声がした。
彼女が振り向き、みちかも声の方を見た。
そこには関崎が勢いよくこちらへ歩いて来る姿があった。

「友利さん、お久しぶりです。この度は乃亜ちゃん、おめでとうございます。」

よく通る元気な声で話しながら、笑顔で関崎はこちらへ歩いくる。

「こちらこそお世話になりありがとうございました。ご挨拶が出来ず申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、とんでもないです。それより、すごいですよ、聞きました?乃亜ちゃんが受けた聖セラフの2日目、倍率5倍超えていたそうです。頑張りましたね、素晴らしいですよ!」

「え…、そうだったんですか?」

生き生きと表情豊かに話す関崎にみちかは圧倒されていた。
まさにパワーがみなぎりオーラが大きい、そんな感じで、今にも腐りそうになっている心根が見抜かれてしまいそうだった。
現実にしっかりと引き戻されていく、まるでそんな感じだった。

「はい!まさに乃亜ちゃんと友利さんの日頃のご努力あっての結果でした。」

みちかは「いえいえ…。」と謙遜し、深々と頭を下げた。

「あの、百瀬先生にご用事があるそうなんです。今日お休みでしたっけ?」

そこで始めに話した女性スタッフが関崎にタイミングよく声をかけた。
すると関崎の表情は一気に曇り、申し訳なさそうな顔になった。

「あー…、百瀬ですよね。今日はお休みいただいているんですよ。」

あぁ、やっぱり居ないのか、とみちかは内心がっかりした。
それでも関崎に会えてなんだか目が覚めたような気がしたし、これで良かったのかもしれない、そう思った。

「そうでしたか。あの…、実は百瀬先生にお返ししたいものがありまして、お渡し頂いてよろしいでしょうか。」

封筒に入れた文集を、みちかはバッグから取り出す。
すると関崎は、「えっとー…。」と言って、戸惑った顔をすると、両手の平をこちらへ押しやるように向けて言った。

「ちょっと、えーと。お待ち頂いてもよろしいですか?あの…、良かったらそちらへおかけになっていて下さい!どうぞ!」

それだけ言って、関崎は事務室の奥へと行ってしまった。
急用でも思い出したのだろうか、不思議に思いながらみちかは関崎に言われた通り背後に並ぶソファに浅く腰掛ける。
そして壁に貼られた沢山の合格者の名前をぼんやり眺めながら関崎を待っていた。

5分ほど経った頃、戻ってきた関崎はみちかのそばまで駆け寄ると小声で言ったのだ。

「百瀬が今からこちらへ来ます。よろしかったらすぐそこの東口公園で待って頂けませんか?百瀬はそこを通りますので。」