温まったコテを毛先に巻きつけながら、みちかは鏡越しの自分の顔をじっと見つめる。
昨夜ほとんど眠れなかったせいで、頭がひどくぼんやりしていた。
また疲れた顔をしていると百瀬に思われないだろうか。
出かける前にもう一度、毛先を巻き直そうと鏡の前に立つと、色んな不安が襲ってきて、みちかの足を重くする。

昨夜の南可那のメールがあまりに強烈で、自分の中でずっと大事にしてきた色々なものがどれもこれも一晩で簡単に壊れそうになっていた。
きっと必死で守っても、その時が来たら全部壊されてしまう、それなら自分で壊してしまったほうがよっぽどいい。
夜中、そんな悪い考えがぐるぐると止まらずに押し寄せた。
百瀬を忘れようと人知れず苦しんで、我慢している事も、一体何のためなのかもうよく分からない。
あんなメールを受信しておきながら、悟は今朝もいつも通りだった。

朝食時、彼はダイニングテーブルに置いてあったルツ女の文集を手に取って「これ、どうしたの?」とみちかに呑気に尋ねてきた。

みちかが「乃亜の担当の先生にお借りしていたの。」とこたえると、「ふぅん。」と興味無さそうに返事した。
「聖セラフのお試験の日には、わざわざ駅まで来てくださったのよ。とっても良くしてくださった先生なの。」とみちかが言うと、「あの忙しい時期に?わざわざ乃亜のためだけに?」と、ただびっくりしていた。

思わずむきになり百瀬の事を話してしまう自分にみちかは驚いていた。
むしろまだ話し足りないくらいだった。

それでもいつも通りの涼しい顔で、泊まりの荷物を手に出勤して行く悟の姿を見ていたら、ふっと今日百瀬に会いに行こうと思いついたのだ。
文集を直接返してお礼を言おう、ただそれだけのことを躊躇っていたなんて、何だかおかしいしつまらない、そう思えてきたのだ。