傘を持っている子が持っていない子と相合傘をして駅まで行くとか、とりあえず走るとか、コンビニで買ってくるとか、皆、靴を履きながら話し合っている。

「南さんは、傘あります?」

荒木さんに聞かれ可那は首を横に振った。

「今日は私も持ってきてないなぁ。」

「あ、じゃあコンビニで買ってきましょうか?南さん、ここからご自宅まで歩きですよね?」

「あ、うん。」

可那の家はここから徒歩10分ほどだ。
駅へ向かう皆んなとは、1人だけ逆方向へ帰る事になる。
荒木さんの気遣いに、可那はちょっと困って「うーん…、どうしようかなぁ。」と言いながら、キョロキョロ友利の姿を探した。
今日は絶対に友利と一緒に帰りたい、最初からその作戦で決めていたのだから。

「あ、友利さん居た。ねぇ、友利さんは傘あります?」

階段を降りてきた友利に可那は駆け寄る。
可那が甘えるように見上げると、友利は「ん?あるよ。南は傘持っていないの?」とキョトンとした。

「持って来てなくて…。今日は私が入れてもらってもいいですか?」

友利のシャツの腕をせがむように掴んで可那が言うと友利はキョトンとした顔のままで「え、あぁ、いいけど。」と言った。

「荒木さん、私、友利さんと帰るから大丈夫。ありがとう。」

振り向いて荒木さんにそう告げると、彼女はニヤニヤ笑って頷いた。

外に出て、皆と「元気でね。」と言い合ってから、友利が開いた大きめの折りたたみ傘に入って、皆んなと逆方向へと歩き出す。

「今日、雨になるなんて天気予報言ってませんでしたよね?友利さん、ちゃんと傘持ってきててすごい。」

友利にピタッと寄り添いながら可那が言うと友利は「そうなの?」と言った。

「今朝、奥さんに持たされたんだよ。俺は天気予報見ないから分からない。」

可那は思わず、友利を見上げる。
こんな時に奥さんの話しなんてしないで欲しい。
少しだけムッとした。

「ねぇねぇ友利さん、あの時は逆でしたよね?友利さんが傘を持ってなくて、私の傘に2人で入ったんですよね?」

「ん?あの時…?」

横断歩道の信号が点滅を始め、可那はわざと立ち止まった。
友利も立ち止まり、可那の顔をじっと見てそのまま考える顔を続けている。
やだ、本当に忘れちゃったのかな、と思い可那は少しだけ焦った。

「あぁー…。そうだったね、思い出した。」

友利が笑顔になって、可那はホッとする。

「もぉ…。忘れないで!」

怒ったフリをして、友利の傘を持つ腕を両手でギュッと自分の方へ引っ張った。

あの時も、可那の傘をこんな風に友利が持ってくれていた。
そしてこの道を通っていたからこの信号も渡ったはずだ。