「お疲れ様です。」

上目遣いで友利の目を見て挨拶をする。
全く連絡の無い事に私は怒っているのだからねという想いを込めたつもりだけれど友利はいつもと変わらなかった。

「お疲れさま。」

上品な水色のワイシャツ姿で、涼し気に笑っている。

「南さん、ビールでいいですか?」

一番下手に座っていた細川くんが首をひょいっと可那に向け、ノリの良い感じで声をかけてくる。
即座に「ビールでお願いします!」と可那は笑顔で返した。

さりげなく友利のグラスを覗くと、お洒落な陶器のコップにはビールが残り半分くらい入っているようだった。
酔っている様子も無い所を見ると、さすがにまだ1杯目だろう。

「南さんどうですか?本部は忙しいですか?」

正面に座る仲村くんに質問をされ、可那は苦笑いをして見せた。

「そうだね…、とりあえず帰宅は毎日0時過ぎだよ。」

「えー。」とか、「きついー。」とか周囲が口々に驚く。

「内勤でその勤務時間の長さって…仕事量半端ないですね。」

仲村くんに突っ込まれ、可那は「まぁ、今はプレス発表会の準備があるからね。」と適当に答えた。
仕事量と言うより実際は、じっくり型の池之内のお陰で思うように準備が進まないのが
原因だ。

「池之内さんてやっぱり厳しいですか?」

斜向かいに座る営業の女の子、荒木さんが眉間に皺を寄せる。

「あぁ…。」

可那は思わず口ごもる。
あんなに池之内に憧れて本部に異動した身分で、さすがに彼女の事を悪くは言えない。

「厳しい…っていうか、うーん。完璧主義なのかな?真面目だし仕事は丁寧だし…。やっぱりすごい人なんだと思う。」

可那の言葉に一同が納得したように頷いた。

「おまたせ致しましたー。生ビールです。」

その時襖が開き、可那のビールが運ばれてきた。
仲村くんが立ち上がり、「南さんもいらっしゃった事ですし、改めて乾杯しましょう。」とまとめ、一斉に乾杯をする。

久しぶりに外で飲むお酒は美味しくて、可那はあっという間に2杯目、3杯目と飲んだ。
ストレスとか疲れとかの原因が、飲むほどに口をつき素直に外に出てくるのだ。
止められなかった。
お酒が魔法のように気持ちを解きほぐして行く。
話しながら思わず、隣に座った友利にしな垂れかかったり、太ももを撫でてみたり、それを「やめて。」と言われてちょこっと泣いてみたり、終始、感情が忙しく揺れ動いた。
早く送別会を終えて、友利と2人きりになりたい、と体はそればかりを考えた。
だから終了の時間が来て二次会はやらない事が決定した時は本当に嬉しかった。
仲村くんがお会計を済ませてくれて1階へ降りて行くと外は結構な雨が降っているようで傘を持っていないメンバーは困っていた。