玄関先で郵便局員に受け取った速達を手に、みちかは急いで部屋の中へと戻る。

テーブルの上に準備していたハサミを持つとその手が震えているのが分かった。
中身を切らないように、封筒の上を慎重に切り落として中の用紙を取り出す。
用紙が1枚、この時点でもう、それが何を意味するのかみちかは気づいていた。

聖ルツ女学園と書かれた空の封書をテーブルにそっと置き、深呼吸をする。
そしてそっとその3つ折りの紙を開いた。

『残念ながら不合格となりました』という文字が視界に入るなり、頬を生温かい涙がつたう。

2週間前に親子面接を終えて、昨日は筆記試験を受けたばかりだ。
乃亜はどちらもとても落ち着いて受けれたと思う。

どうして、一体何がいけなかったのだろう。
みちかの頬を次々と涙がつたっていく。

ずっと憧れて憧れて、一生懸命にやってきた。
この日を笑顔で迎えるため、努力を怠らずに頑張ってきたというのに。
思えば思うほど悲しくて、立っていられなかった。
気がつくと、床に手をつき泣き崩れていた。

小さな手で鉛筆を握りしめて何度も何度も繰り返しやっと解けるようになった過去問題、写真館のカメラマンに促され、小さいなりにぎこちない作り笑顔を浮かべた願書の写真、夏期講習に向かう時の不安そうな横顔、色々なことがみちかの頭を巡る。

合格のために辿ってきた今日までの長い道はもう戻る事は出来ない。
一生でたった一度だけのこの機会は、とうとう報われる事なく終わってしまったのだ。

力なく立ち上がると、みちかはソファに座りこみ、スマートフォンを手に取って画面を見つめた。
何度も何度も文章を書き換えて、『乃亜ちゃん、ルツ女残念でした。』とだけ悟にメールで送る。

時計を見上げると12時半、今ごろサンライズ体操教室では合格を報告する電話が立て続けに鳴っている事だろう。
乃亜の幼稚園のお迎えまでには、サンライズに電話をかけて我が家は残念だった事を報告しなくてはいけない。

一昨日、直前講習の終わりに百瀬は乃亜の前にしゃがみ込み、両頬をそっと優しく包んだ。
「頑張れるおまじないだよ。」と言った優しい声を、何度も何度も思い出し緊張を乗り越えてきた。
あの時にもう一度戻りたい、どんなに強くそう願っても二度と戻れない。
朝早く起きて朝食を作り、身支度を整え、乃亜の手を引きルツ女の門をくぐった昨日の朝は戻ってはきてくれない。
そして私たち親子が、あの正門をくぐることはもう二度とないのだ。